何がフランスの心を奪ったか~映画「最強のふたり」 [映画時評]
何がフランスの心を奪ったか~映画「最強のふたり」
「ウマが合う」とはこういうことを言うのだろう。育った環境も、考え方もまるで違う二人が、ただ本音でぶつかり合うという共通点だけで最強の友になる。その過程を描いただけの映画だが、なぜかしみじみとした幸福感を味わうことができる。
スラム街の出身で、刑務所を出たばかりのドリス(オマール・シー)は職を探している。いや、正確には失業手当欲しさに、職探しの「証拠」を仕立てるため、事故で首から下が麻痺した富豪フィリップ(フランソワ・クリュゼ)の介護者選びの面接を受ける。ただ「不採用」のハンコがもらえればよかった…はずだった。ところが意外にも採用されてしまう。
フィリップはクラシック音楽に造詣が深く、現代美術にも通じている。一方のドリスが聞くのはアース・ウィンド&ファイア。絵画などちんぷんかんぷん。会話が成り立つはずがない…そのはずだが、フィリップはまんざらでもない。半端な同情心など持たないが、本当は優しいドリスの心根が分かるからだ。深夜、発作に襲われたフィリップを車に乗せ、明け方まで付き合うドリス。
しかし、ドリスは家庭の事情からフィリップの介護を辞めざるをえなくなる。新しい介護がついたが、フィリップの心は孤独感を増していく。そして、真夜中にドリスを呼び出す。
言ってみれば、ストーリーはこれだけ(結末は書いてないが)。劇的な展開があるわけでも、涙を誘うしみじみとした隠し味があるわけでもない。むしろ演出はさらっとしている。しかし、何かしら幸福感に襲われるのである。製作したフランスでは、国民の3人に1人が見たという。確かにいい映画だが、一体この現象はなんなんだろう。フランス人の心のどこに、この映画は突き刺さったのだろう。そのことにとても興味がある。それと、オマール・シー(フランスのコメディアンらしい)の演技がとても印象的だ。
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