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東電の体質はどこから来たか [濫読日記]

東電の体質はどこから来たか


「『東京電力』研究 排除の系譜」(斎藤貴男著)


 

 

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「『東京電力』研究 排除の系譜」は講談社刊、1900円(税別)。初版第1刷は2012530日。著者の斎藤貴男は1958年東京生まれ。大学卒業後、日本工業新聞記者、週刊文春記者などを経て独立。「安心のファシズム」(岩波新書)、「いま、立ち上がる」(筑摩書房)など著書多数。

  














 福島第1原発事故を経験してあらためて思ったことだが、それにしても東京電力の「非社会性」はどうだ。事故調査報告書など、自己弁護と責任転嫁を除けば、何も残らない。こんなものを世間に問うて恥じることのない体質はどこからもたらされたか。

 ――災害はそれに見舞われた社会の断面を一瞬にして浮上させる。

 「3.11」直後こう指摘したのは内橋克人だが、同じく経済ジャーナリストを出発点とする斎藤貴男もまた、さまざまな「断面」をみる。「原発」に関して言えば、彼には「民意のつくられかた」(岩波書店、2011年)が既にある。原子力神話の形成過程にメスを入れ、主要な関心事は「メディア」の在り方にあるとみてとった。

 それは少し違っていたらしい。もっと大きなスケールで「日本」という船の航跡を見ていたことが、新著で明らかになってくる。しかし、彼が「原発」「東電」を書くに至った経緯は単純ではない。「はじめに」にこうある。

 ――「脱原発」のムーブメントにも市民運動にも、私はどこかで違和感を抱いている。(略)素直に乗っていけない自分がいる。

 ここから、なぜ東電は暴走したか、なぜ東電は反対勢力を排除していったか、という問いかけを積み上げ、著作の入り口を提示する。

 大きくは二つの流れがある。一つは東電の中興の祖とされる木川田一隆の思想形成過程。ここでは理想主義的自由主義の旗を振った川合栄次郎にまで系譜をさかのぼる。もう一つは、戦後の労働運動の結成と崩壊。ここでは、最強労組の一つとされた電産の自壊過程が明らかにされ、その中で「共産党排除」に執念を燃やしレッドパージに関わった木川田の行動が交錯する。

 ――現実に起こしてしまった事故に対する苦悩らしきものさえ伝わってこない態度には、哀れさえ感じた。一人の人間というよりは、企業と資本に服を着せただけの姿が、そこにあった。

 昨年の株主総会で議長を務めた勝俣恒久会長(当時)に対する、斎藤の点描である。ここに込めた違和感の源流を探ったのが本書であるといえる。文頭に挙げた疑問を、斎藤もまた共有する。

「東京電力」研究 排除の系譜

「東京電力」研究 排除の系譜

  • 作者: 斎藤 貴男
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/05/31
  • メディア: 単行本



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