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米国と違った視角で戦争の闇を描く~映画「ルート・アイリッシュ」 [映画時評]

米国と違った視角で戦争の闇を描く
~映画「ルート・アイリッシュ」

 

 イラク戦争を描いた近作として「ハート・ロッカー」「グリーン・ゾーン」がある。いずれも、米国からみたイラク戦争の実像に迫っている。一方、ケン・ローチ監督の「ルート・アイリッシュ」は英国、フランスなどヨーロッパ5カ国による合作。ヨーロッパはこれまで、アフリカ大陸のクーデタ計画などに傭兵を送りこんだ長い闇の歴史を持つ。このことが、映画の構成にも濃い影を落としているとみる。

 米国映画が正規軍による戦闘(ただし非対称戦)であるのに対して「ルート・アイリッシュ」で描かれるのは民間兵(傭兵)による倫理なき行為である。このテーマに、ケン・ローチがスリリングなストーリーを仕立てて迫る。映像はいかにも英国らしい味わいで、それだけに戦争の闇、罪深さが伝わってくる。ストーリー展開は全く違うが、クリント・イーストウッドの「グラン・トリノ」に通じるものを感じとった。戦場での行為がぬぐい切れぬ罪の意識として心の奥底に沈殿する。

 ルート・アイリッシュ.jpg


 「ルート・アイリッシュ」はフセイン宮殿を改装した要塞「グリーン・ゾーン」からバグダッド空港へ向かう12㌔。世界一危険な道とされる。ここを警備のためコントラクター(民間兵)が往復する。ファーガス(マーク・ウォーマック)もその一人。彼は一足先に英国へ帰国するが、残った親友フランキー(ジョン・ビショップ)は、無残な死を遂げる。フランキーの妻レイチェル(アンドレア・ロウ)とともにファーガスは事件の真相究明に乗り出す。

 イラク戦争では、敵は「人民の海」にひそんでいる。だから、生き延びるためには近づくものは撃たねばならない。そうした戦場のルールが引き起こした数々の事件がベースにある。しかし、ここで「ハート・ロッカー」や「グリーン・ゾーン」と違うのは、ジェームズ2等軍曹やロイ・ミラー隊長は、ねじれた関係にせよ「米国」という存在を背負って行動していることだ。それに対して「ルート・アイリッシュ」ではそんなものはみじんもない。戦場での行為にストレスを感じれば、ただ精神を崩壊させるしかない。ここに、かつてヨーロッパの傭兵がアフリカのナミビアやザイール、コンゴといった紛争地帯で倫理なき闘いを繰り広げた歴史に通底するものを感じる。

 残念なのは、2010年製作のこの映画が2012年の夏になってようやく見られることだ。もし2年前、すなわち201110月のオバマ大統領によるイラク撤退発表前に公開されていたら、インパクトはもっと違ったのではないか。そしてもう一つ、あれほど精神的にタフだったファーガスの、最後の「決着」のさせ方は今一つ腹に落ちない。


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