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日本の安全保障の巨大な闇が見える~濫読日記 [濫読日記]

日本の安全保障の巨大な闇が見える~濫読日記

「日米『核密約』の全貌」太田昌克著

 核密約の全貌_001.JPG「日米『核密約』の全貌」は筑摩書房刊。初版第1刷は20111115日。著者の太田昌克は1968年生まれ。92年共同通信社入社。広島支局、外信部、政治部ワシントン支局などを経て2009年から論説委員。06年度ボーン・上田記念国際記者賞。著書に「盟約の闇」など。 












 200912月、佐藤栄作氏の遺品の中からある文書が見つかったと報じられた。1969年の日米首脳会談にあたっての「合意議事録」である。米側から、緊急時の核兵器の沖縄への再持ち込みと沖縄通過について「事前協議を経て(それらの)権利を必要とするであろう」と表明があり、日本政府は「これらの要件を遅滞なく満たすであろう」と答えたという。

 日本の非核三原則と米国による拡大抑止(いわゆる「核の傘」)を合わせた「核4原則」は、佐藤政権の時代に確立された。

 ナショナリストである佐藤栄作は中国の核実験を見て、自国の核武装の必要性を痛感する。しかし、当時の反核世論から見て核武装などとうてい不可能であった。そこで選んだ選択は、「核をつくらず、持たず」の2原則と核の傘の両立であったという。しかし与党内の議論の中で「持ち込ませず」が急きょ付け加えられ、3原則となった。佐藤政権がこれを国会で表明した時、米側は驚愕したという。こうして「核の傘」との「4原則」が成り立ったわけである。しかし、この核政策は重大な矛盾をはらむ。核兵器搭載艦を日本に近づけないとすれば、米軍は「核の傘」の任務をどうやって担うのか。

 米側は日米安保の議論の当初から、核持ち込み事前協議の対象を「イントロダクション」―すなわち核兵器の「据え付け」に限定しており、核搭載艦の寄港、通過(トランジット)は含んでいないとしている。この認識のずれは条約締結時にもあったが、日米ともそれを放置したまま、安全保障体制の構築に向かう。つまり不作為の末の「密約」が成立する。こうした状況下で佐藤政権は「核抜き・本土並み」沖縄返還交渉に臨んだ。

 そこで冒頭の「議事録」になる。この文書の内容は、佐藤の命を受けて日米交渉の密使となり、後年その舞台裏を著して自死した国際政治学者若泉敬の「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」の内容とも合致する。有事の際の核兵器の再持ち込みは、間違いなく「イエス」と答えるとしたのである。しかしその「証文」は、佐藤家の奥深くにしまわれた。

 「現憲法下で核兵器の保持は可能」とする岸信介は1958年当時のことをこう回想している。

 ――日本は核兵器を持たないが[核兵器保有の]潜在的可能性を高めることによって、軍縮や核実験禁止問題などについて、国際の場における発言力を高めることができる。(山本義隆「福島の原発事故をめぐって」)

 日本は、今は核兵器を持たないが、いつでも持てるぞ、という「技術抑止」の考え方である。

 日本の保守政治は、安保条約による軽武装と経済重視の国家戦略で戦後を突き進んできた。ここには核の拡散によるリスクの増大を恐れる米の核戦略が絡む。NATOは、ソ連の通常兵器の優位性を見て「ツーキーシステム」による核の共同管理へと向かったが、日本国内には厳然とした反核世論があり、NATO並みの安全保障体制は取れなかった。その中で岸、佐藤といった「ナショナリスト」は「技術抑止」としての原発推進に走る一方、有事の際の核持ち込みをひそかに米側に保証する方法をとったのである。翌年3月、有識者委員会が日米密約についての検証を行ったが、その対象となった四つの密約とも岸、佐藤政権のものであった。

 著者は共同通信記者。入社後15年たって政策研究大学院大学に在籍し、博士論文に取り組んだ。その論文に加筆したのがこの一冊である。日本の「核の傘」と密約の成立過程を、あますところなく書き記している。この問題に関しての教科書に値するだろう。

 著者は最後に、ポスト冷戦下での日本の核政策について、日米間の協議の枠組みが必要としているが、同感である。それにもまして私は、現民主党政権下での、核にとどまらぬ国防政策の議論の貧困さを嘆く。現政権には、自民党時代のような「国防3部会」さえない。党内議論の不在は、おそらく自民党から社会党の出身者まで寄せ集めた党内構造にも由来する。そうした議論の枠組みがあれば、普天間もこれほど迷走しなかったのではないか。

日米「核密約」の全貌 (筑摩選書)

日米「核密約」の全貌 (筑摩選書)

  • 作者: 太田 昌克
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2011/11/14
  • メディア: 単行本


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