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少女の酷薄な旅~映画「ウィンターズ・ボーン」 [映画時評]

少女の酷薄な旅~映画「ウィンターズ・ボーン」


 「少女の酷薄な旅」とタイトルを付けたが、随分月並みだな、と今思っている。しかし、これよりほかに思いつかなかったのも事実だ。それほど、この映画の色彩―ほとんどモノクロだが。スクリーンのことではない。作品そのものが持つ〝色彩〟のことである―は、単一のものである。この感じは「フローズン・リバー」に似ている。犯罪のにおいがする共同体。ドラッグ。精神の壊れかけた人たち。冷たく広がる荒野、あるいは凍りついた川面。そして、アメリカ社会。

 ミズーリ州南部の山中に住む17歳の少女リー(ジェニファー・ローレンス)は精神を病んだ母と幼い妹と弟を抱え、かつかつの生活をしている。父親はドラッグの密売で捕まり、懲役10年の刑を宣告される。その父は自宅と、所有する森を担保に保釈金を積み、逃走する。保安官は、担保を没収せざるを得ないことを告げる。すると、リーは毅然として言う。「私が彼を見つけるわ」―。

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 少女の、父親探しの旅が始まる。娘による父親探し―などと言ってしまえば甘くなってしまう。そんな味付けはいっさいない。真相を追ううち、父親は既に殺されているらしいことが分かってくる。そこで彼女は父親が本当に死んでいるかを確かめなければならない。ここにドラッグ漬けの伯父ティアドロップ(ジョン・ホークス)が絡んでくる。はじめは冷たくリーを突き放すが、いちずな思いに少しだけだが心が動く。父の死について事情を知っているらしいある連中は、彼女にリンチを仕掛ける。それでもへこたれない姿を見て、彼らもまた少しだけ心を動かす。だが、別の作品での沢木耕太郎の表現を使えば、寒色系のキルトが、暖色に変わることはない。

 ジョン・ホークスとの絡みは「トゥルー・グリット」のようでもあるが、もっと重苦しい冬の雲が垂れこめた荒野が目の前に広がっている。リスが捕獲され、皮をはぎとり、そのすべを弟たちに教えるシーンがあるが、これを少女の生命力ととるか、あまりにも過酷な運命ととるか―。

 ただただ、挫折することのない少女の精神力だけが救い、という映画である。それを演じるジェニファー・ローレンスの演技力には敬意を表する。


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