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文化大革命に散った恋~映画「サンザシの樹の下で」 [映画時評]

文化大革命に散った恋~映画「サンザシの樹の下で」


A 中国の巨匠、チャン・イーモウ監督の作品だ。舞台は1970年代、文化大革命のころ。若い男女の恋愛を描いた。

B あの時代への批判がもっと込められているのかと思ったらそうでもなかった。一見すれば、悲恋のドラマといった感じだ。

C 最近「毛沢東の大飢饉」という本が出て、1958年から62年にかけて中国での飢饉の死者は低めに見積もって4500万人だと明らかにされた。この事実が後の周恩来や劉少奇との権力闘争につながり、猜疑心を深めた毛沢東の妄想が文化大革命だとする見方もある。ヒロインの母親が、彼女は労働改造を強いられている身だが、「私たちは出身が悪いから」といって2人の交際を認めないシーンがある。

A こういうところに、あの時代への批判的メッセージは込められている。ヒロインの父親は右派思想のため収容所にいるということになっていた。

サンザシ1.jpg 

C ヒロインのジンチュウを演じたチョウ・ドンユイはまだ10代だろう。あどけないが、時に思い切った行動もする。そんなひたむきさを出していた。彼女は都会の高校生という設定で、農村に行き実習活動を行う中でスン(ショーン・ドウ)と出会う。しかし、彼女の母は、2人の交際に反対する…。
B やはり、そこで当時の文化大革命との関連性を見るには、メッセージ性が弱い。

C いや、今の中国では、これが表現の限界なのではないか。当時の政治状況をある程度頭に入れておけば、十分伝わる。

B スンはある病気で入院する。会ってはならない2人だが、どうしても会ってしまう。このあたりのチョウ・ドンユイはとてもいい。まさに悲恋ドラマの王道を行く感じだ。

C ストーリーをばらしてしまうようだが、スンの臨終の席に、彼女は赤いコートを着て現れる。2人で赤いサンザシの花を見に行こうとスンがプレゼントした布地を縫って作った赤いコート。ここまでくると滂沱の涙だ。

A サンザシは普通、白い花が咲くのだが、ある樹は赤い花が咲くのだという。抗日戦士の血が樹の下にしみ込んでいるからと伝えられている。スンの遺骨はその樹の下に埋められたのだが、三峡ダムの建設によってサンザシの樹はダム湖に沈む。

 サンザシ2.jpg


C ここにも、経済優先の今の中国への批判を感じる。三峡ダム自体も、本当に必要だったのか、無用の長物だという批判がある。
B 物語の背景にある中国の自然はとても美しい。だけど貧しい。今の中国は経済発展が目覚ましいが、こうした伝統的な風景は消えていきつつあるのではないか。国のかたちとしては、醜ささえ感じる。
A 最近の中国の動きを見ると、そうだね。

C ヒロインは実在の人物で、その後アメリカに留学する。そこで知り合った中国系アメリカ人の作家が、彼女の手記をもとに小説を仕上げた。

A いくら貧しくてもピュアな精神は保つことができる。経済は本当に人間を幸せにするのか。そう考えると、今の日本、原発論争にも通じる。

B そこまで話を持っていくと、身も蓋もないなあ。

A 単なる純愛ドラマととるか、現状を含めた中国批判ととるかはそれぞれの感性や知識によるだろうね。


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