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人生は深い~映画「クレイジー・ハート」 [映画時評]

人生は深い~映画「クレイジー・ハート」


 栄光のマウンドが忘れられないメジャーリーガー。かつてのベストセラーに縛られる小説家。もてはやされたころを心に抱えて生きるムービースター。そのいずれでもいい。過去にとらわれた者たちの物語の、なんと甘くて切ないことか。

 バッド・ブレイク(ジェフ・ブリッジス)は年老いたカントリー・ミュージシャン。地方を転々としながら歌っている。売れっ子の時代はとっくに過ぎたが、プライドは捨て去ることができない。ギャップを埋めるために酒びたりの生活が続く。そんなとき、ある女性記者ジーン・クラドック(マギー・ギレンホール)のインタビューを受ける。彼女と新しい生活を始めようとするが、酒は断ち切れない。そうした関係に「危うさ」を感じたジーンは、バッドのもとを去っていく。

 あらすじをあらためて書いてみると、これは三文小説だな、と思う。一つ間違えば陳腐そのもののストーリーだ。しかし、この映画はそうはならない。その理由は三つある。

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 一つは主演のジェフ・ブリッジス。酔いどれて落ち目のミュージシャンだが、どこかに矜持をひそませている。タダものではない、そんな感じをきちんと出している。これは演技力、という言葉では片付かない。役者としての「格」だと思われる。

 二つ目は、映画の中で歌われるカントリー・ミュージック。ジーンのインタビューで「どこから曲のヒントを得るの?」と聞かれ「俺の人生から」と答えるシーンがあるが、セリフそのままに人生の味が染みついた本物のカントリーの良さ。

 三つ目は、アメリカの自然。バッドが運転するワゴンを包む空と大地の美しさ。この雄大な自然が、あらためて人間の卑小さを思い知らせる。

 ジーンとバッドは、最終的によりを戻すことはない。しかし、バッドは再起を果たし、新しい人生を踏み出す。そのとき「バッド・ブレイク」という芸名も捨て、本名で生きる道を選択する。いかにもアメリカらしい「ハッピーエンド」だが、少しも嫌味ではない。その理由は、やはりジェフ・ブリッジスの演じる「人生の深み」というほかない。

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