SSブログ

さて、菅もまた「消費」されるか [社会時評]

さて、菅もまた「消費」されるか 

*ヒヨドリとムクドリ

*自前の頭で考える

*消費される政治家

*今は政治の踊り場

*対米コンプレックス

 

 新首相に6月4日、菅直人が決まった。「菅首相が誕生した」と言ってしまえないのは党の新体制と組閣を週明けに持ち越し、その間は鳩山由紀夫が職務執行内閣を主宰するという状況になったためだ。しかし、いずれにしても来週には菅内閣が発足する。

 時計の針を少し、前に戻す。

 鳩山の2日の退陣演説で済州島のヒヨドリの話があり、読売新聞が全文を掲載しているので読んでみると「ムクドリ」とある。「?」と思い読み進むと「失礼、ヒヨドリであります」と鳩山は言ったらしい。ムクドリとヒヨドリはともにスズメ科だが若干ヒヨドリが大きく、外見は似ているとは言い難い。なぜ間違えたかは謎だ。最後まで「ボケの鳩山」だったか。ちなみにハトはハト科ハト目で、生物学的にはヒヨドリ、ムクドリとまったく縁がない。サイズはハトが大きい。ついでにネットで調べると「ハト」の語源は飛び立つときの羽音からきているという。鳩山の退陣の羽音はどうだったか。

 ハトとヒヨドリ(もしくはムクドリ)が遠い関係にあるように、鳩山と菅も同一政党にいながら立ち位置は遠い。これは二人の出自を見ればすぐわかる。

 星浩が既に書いてしまったので(4日付朝日「記者有論」)後追いになってしまうが、菅内閣の第一義的な意味は「非自民」性にある。55年体制以降、自民党でない首相は細川護煕と村山富市、羽田孜であるが、細川と羽田はもともと経世会にいた政治家である。村山は社会党委員長から首相になったが、今あの内閣を社会党政権と呼ぶものはいない。もちろん鳩山も小沢一郎も出自は自民党、それも経世会である。55年体制以降の再編の舞台回しは経世会の流れをくむ政治家が担ってきたことがよく分かる。

 自民党との関係がゼロである首相は菅が初めてなのだ。だから菅が、まっさきに小沢の影響力を排除する体制づくりに乗り出したのは正解である。もし経世会崩れの政治家の顔色をうかがう人事をやるならただちに菅の政治力は地に落ち、鳩山と同じく「消費」されるだけの首相になり下がる。

 すでに報じられているように菅は世襲政治家ではない。地盤も看板もカバンも持たず、自力で這い上がった。その分苦渋もなめ、負け戦も戦った。この経験は間違いなく生きる。その人となりについては、こんな見方がある。

 

 菅は、平然と言い放った。

 「それでもかまわない。日本は焼け野原になって、再び〝8月15日〟からやり直せばいい。今のやり方を変えずに、微調整を繰り返しながら低空飛行を続けても、その間に有為な人材がいなくなってしまう。それより一回飛行機を落としてしまって、二十年後に復興させればいいじゃないか」

 出席者は、菅のあからさまな<破壊への意志>を目の当たりにして、唖然としたという。

 

 金融関連法案に反対する民主党に対して金融専門家が批判したときの菅代表の反論である。この後、「あなたは独裁者になるのでは」と質問されて菅は「民主主義というのは、交代可能な独裁なんです」と答えている。(遠藤浩一著「消費される権力者」)

 

 著者はここに菅の「破壊主義的な相貌」を見、「小沢一郎以上に独裁志向の強い政治家なのかもしれない」とするのだが、菅に近い枝野幸男によればこうなる。

 「たたき上げというのは強い。なぜならば、常に自己判断、自己責任で動いてきているからです。修羅場になっても自分の頭で判断し、行動できる」

 

 遠藤の「消費される―」は適度の距離感で菅を見ている。万華鏡のように、光のあてようで相貌の影が違って見えるが、全体像はそれほど外れてはいない。その中で、気になる一言がある。

 「菅直人という政治家を見ていてつくづく感じるのは、『芯』が見えないということである」

 ここを遠藤は「実に自民党的である」とみている。さて、これがどう出るか。

 

 視点をマクロに戻そう。

 細川内閣で官房長官を務めた武村正義がインタビューに答えて「今は明治維新、敗戦に続く、第三の転換期」と言っている。小泉政権も、その後の1年ごとの内閣もその一こまであり「そろそろ新しい政治を本格的に実現しなくてはいけません」と続けている。(5日付朝日「耕論」)

 

 この20年近く日本の政治は「踊り場」にある。菅はひとつ上の階へと引き上げることができるか。指標のひとつは対米関係だ。グローバリズムは即ち国益であると信じて疑わない大国に、どんなスタンスをとるか。吉田茂以来、日本の保守政治は米国との同心円を築くことに腐心してきた。この対米コンプレックスを越えた、自前の政治ができるか。自民党のしっぽを引きずる鳩山がつまづいたのもこの一点である。「非自民」ゆえの新しい対米関係を築ければ、日本政治は踊り場を脱する。「ヒヨドリ」菅が「ハト」を越える時代が来る。


nice!(1)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 2

たんたんたぬき

asaさんこんにちは。映画時評からこちらに参りました。
映画と同じく・・(それ以上)に深い論評読ませていただきました。
とても勉強になります。
前政権発足時には、鳩山総理の言葉とは裏腹に、政権交代のダイナミズムがイマイチ感じられず物足りなさを感じていました。
今回はどうなるか、週明け組閣の動きに注目しています。
by たんたんたぬき (2010-06-06 11:44) 

asa

≫ たんたんたぬき さん
ありがとうございます。
「どうせまた…」というのは簡単ですが、菅内閣にはがんばってもらいたいですね。私も注目しています。
by asa (2010-06-06 12:15) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0