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有識者委の限界示した「沖縄核密約」不認定 [社会時評]

有識者委の限界示した「沖縄核密約」不認定 

 3月17日付の朝日新聞に「『密約と言えず』なぜ」と見出しのついた記事が掲載された。内容を全面的に支持するとともに、さらに詳細な経過報道を望みたい。問題とされたのは沖縄返還時の核再持ち込みに関する佐藤・ニクソン会談の議事録。これを密約不認定としたところに、外務省の有識者委員会の限界を感じるからだ。

 書かれた内容は、このブログの12日付「『核密約』報告書への違和感」で細かく指摘した通りのことだった。例示された「共同声明と合意議事録」の抜粋も、ほぼ同じ内容だった。

 朝日の記事に沿って、もう一度主張の趣旨を明らかにしておこう。有識者委の座長・北岡伸一東大教授は9日の会見で「外交的な婉曲な表現で言えば『ぎりぎりの場合には核の再持ち込みはノーではない』と示唆したと読める」と説明したという。この前提に立てば、機密文書の内容は声明と大きな差はなく、したがって密約に当たらない、というわけだ。

しかし、これは転倒した議論ではないか。いつの時代にも首脳会談の公式声明はできるだけ幅広の表現をし(これを俗に「玉虫色」という)、当事者同士は狭く限定された解釈を共有する、というのは常識だ。そして後世の言い訳のために、秘密合意のシッポぐらいは公式文書のどこかに、巧妙に忍ばせておくものだ。この手法を「密約でない」と言えば、外務省は歓喜するだろう。特に沖縄返還に関しては、沖縄住民のセンシティブな受け止めにとどまらず、日本国民の核アレルギー(あえて「アレルギー」と言おう。「アレルギー」で何が悪いのか)の問題があった。こうした背景によって2人の首脳がより慎重に構えた、というのは想像に難くない。

事実、当時の新聞報道では「核抜き・本土並み」が大きく報じられた。17日付朝日の記事でも「政府は(核再持ち込みを)公式には否定してきた」とし、首脳会談後の愛知揆一外相も「有事持ち込みを与えるという保証を与えたものではない」と述べたという。これを、当時の政府の二枚舌と言わずしてなんというのか。我部政明・琉球大教授も核搭載艦の寄港など、より踏み込んだ内容であることから「『密約の中の密約』ではないか」と言っている。

沖縄返還時の核再持ち込みに関しては、よく知られているように若泉敬・京都産業大教授が政府の密使としてキッシンジャー米大統領補佐官と交渉したとされる(若泉「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」参照)。これまでの報道を見ると、外務省は独自チャンネルで「核容認案」を米側に伝える準備をしていたようだ。しかし外務省は「若泉チャンネル」を把握していなかったという。ここから後藤乾一・早稲田大教授は「交渉で最も重要な核の扱いを民間人がまとめ、外務省は蚊帳の外に置かれた。それ故に密約とは認めたくなかったのではないか」とコメントしている。

だとすれば、今回の「密約認定・不認定」は、外務省のつまらないセクショナリズムの産物だと言わざるを得ない。国民に対して政府はだましたのか、そうでないのか。あるいは当時の為政者がどのような形で歴史に責任を負おうとしたのか。そうした見地から報告書は作られるべきだった。ただ外務省に操られただけだとすれば有識者委員会のメンバーは「学者バカ」と言われてもしかたがない。


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