小沢一郎は野村克也になれるか~財務相の交代劇 [社会時評]
小沢一郎は野村克也になれるか~財務相の交代劇 |
ある全国紙が書いていたが、藤井は東大野球部のキャッチャーだった。元号が昭和から平成に変わったころだったからもう20年近く前になるだろうか。自民党にいた藤井と雑談していて思い出話を聞いたことがある。小沢一郎幹事長の時代だった。藤井も同じ派閥に属し、少壮の議員だった。
今回の一連の騒動を見ていて、藤井の行動スタイルは、政治家になってもやっぱり「捕手」だったという印象が強い。ただ来たタマを受けるというだけでなく、投手にサインを出してゲームを組み立てるという意味での「捕手」である。例えば昨年、楽天の監督を退いた野村克也。選手時代には監督兼捕手という役回りを演じた。著者は忘れてしまったが(後藤正治だったか?)、巨人の森昌彦と藤尾茂のエピソードも記憶に残る。藤尾は強肩強打の超高校級キャッチャー。一方の森は弱肩貧打。レギュラーを取ったのは最終的に森だった。素質を見抜いた川上哲治監督はその後V9戦士を率いる。その差は「ゲームを組み立てる」能力だった。
考えてみると、大蔵省―財務省はもともと「捕手」のポジションだという気がする。各省が出してくる予算要求という「タマ」を受けながら国のかたちを整えていく。主計官も務めた藤井は、まさしく捕手の中の捕手だったのだろう。
しかし、民主党政権で藤井が不幸だったのは捕手がもう一人いたことだ。しかも、その男は剛腕の投手でもあり監督でもあった。藤井はしかたなく、来たタマを取るだけの「カベ」に徹するしかなくなってしまったのだろう。もちろん民主党政権には鳩山由紀夫という「エース」がいる。暫定税率をめぐって2人の投手が別々のマウンドから同時にタマを投げれば、さすがの藤井もミットを投げ出さざるを得なかった。そんな顛末が頭に浮かぶ。
それにしても鳩山投手は腰が据わらない。投球フォームは定まらず、ボールもどこへ向かうか。小沢がマウンドに立たざるを得なかったのは、鳩山のふらつきも大きい。しかし宰相の資質とは分からないものだ。鳩山はなんとなく育ちの良さを感じさせ、国民に「まあいいか」と思わせる正直・率直さが表に出ている印象がある。安倍晋三や麻生太郎を見れば分かるが、育ちの良さがそのまま人柄に出て得をする人物はそうはいない。マウンドから下ろすにはまだ早い。軟投でピンチに意外なしぶとさを見せるかもしれない。
さて、後任財務相の菅。この人も捕手のタイプではない。国家戦略室(このネーミングはなんとかならないものか)はもともと政権内捕手のポジションだったのだろうが、「ダマ菅」になってしまったのはキャラクターが合わなかったせいではないか。今後は財務相というマウンドでタマを投げる。就任会見でさっそく為替市場介入発言という「ボーク」をやってしまったが。
昨年暮れ、ある経済専門紙で中曽根康弘元首相がインタビューに応じ、小沢の仕事ぶりについて「割合、自制してやってきた」と答えていた。その後で「鳩山君にどう適切な助言をするか」と続け「チャンスがあれば、首相をやりたいだろう」と言及した。前半部分は、そうだと思う。「二重権力」と言われるが、小沢にしてみれば「自制」しているほうだろう。「首相をやりたい」かどうか。この辺はもともとヤマっ気が多い中曽根が、自身になぞらえた感もある。本当のところは「?」だ。ただ、首相になるかはともかく、小沢の今の役回りは「捕手」であることに間違いない。本人が望んだかどうかは別にして、これまでの事例をみると小沢はマウンドに上がると結構、暴投が多い。
与党でなければ生きていけない公明党は1月8日、政界を引退していた市川雄一元書記長を常任顧問に据えた。捕手というポジションは守りのシフトに入ったとき、ただ一人味方選手と向き合う位置になる。いまのところこうした守備位置にいるのは小沢だけのようだ。「一・一」も含めた守りのシフトに「キャッチャー小沢」が目を光らすことができるなら、民主党政権は当分続く。
2010-01-09 17:44
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