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「ポスト戦後」映画の予感~映画「ゴジラ-1.0」 [映画時評]


「ポスト戦後」映画の予感~映画「ゴジラ-1.0

 映画「ゴジラ」第一作は1954年秋に公開された。以来30作目が「ゴジラ-1.0」である。直近の「シン・ゴジラ」から7年ぶりになる。
 オリジナルはビキニ環礁で第五福竜丸が被曝したブラボー作戦(水爆実験)直後に公開、核実験の影が色濃く出た。この年、朝鮮半島では中国・北朝鮮と米国・韓国の戦火がやまず、米ソの緊張も極度に高まった。こうした時代背景のもと作られた「ゴジラ」は核と戦争の恐怖に支配されざるをえなかった。映画評論家・川本三郎も「今ひとたびの日本戦争映画」(岩波現代文庫)で「『怪獣映画』であるよりも『戦争映画』である」「さらにいえば『戦争』というより『戦災』『戦禍』の映画なのだ」と「ゴジラ映画の『暗さ』」の理由を解き明かした。
 「ゴジラ」が、9年前の敗戦の「記憶」と深くつながっていたとする向きは多い。川本もオリジナルのラスト、ゴジラが太平洋に沈むシーンに戦艦大和や戦没兵士らの姿を重ね、講和条約後、再武装に踏み出そうとする日本への、怒りの警鐘とする。だからこそゴジラに、人々は恐怖したのだという。川本はさらに、ゴジラが皇居を攻撃しなかったことに戦後も続く天皇制の呪縛をみたが、民俗学者の赤坂憲雄は三島由紀夫の「英霊の声」を引き、異論を述べている。英霊はこういっているという。
 ――われらは裏切られた者たちの霊だ。
 二・二六事件で、そして戦後の人間宣言で。「などてすめろぎは人間(ひと)となりたまひし」-。人間になってしまった天皇の住まうところなど攻撃・破壊の価値はない。こういっているという(「ゴジラとナウシカ」(イーストプレス刊)から)。

 そろそろ「-1.0」に移らなければならない。この作品の特徴は二つある。①ゴジラ出現のタイミング。オリジナルが核時代を告げる中で生まれたのに対し、戦争末期の1945年に日本兵に敵対する形で現れる。②川本が指摘した未来への「暗さ」がないこと。これは①と微妙に絡む。ゴジラが戦時に出現したことで、戦後(思想)とゴジラはパラレルの関係になった。オリジナルでは日本の戦後と対峙する形で存在したゴジラが「-1.0」では日本の未来を切り開こうとする力と対峙する形で描かれる。構図は単純化され、川本がいう戦後思想の「暗さ」が介在する余地がない。

 敷島浩一少尉(神木隆之介)は戦争末期、ゼロ戦で特攻に出撃するが、死への恐怖を克服できず大戸島(オリジナルで、ゴジラが最初に現れた島と同名)に着陸する。待機の整備兵数人に故障を告げるが機体は正常で、橘宗作(青木崇高)らから作戦離脱を疑われる。そこへ海底からゴジラが現れ、整備兵ら大半が死亡する。
 戦争が終わり、敷島は特攻崩れとして東京に戻る。自宅は跡形もなく、近所の太田澄子(安藤サクラ)から母の死を告げられる。焼け跡闇市を彷徨するうち大石典子(浜辺美波)と出会う。身寄りのない乳飲み子明子を連れていた。
 このあたりの描写は興味深い。澄子は敷島を見て、あんたらがしっかりしないからこんなことになったんだと非難する。日本軍は天皇の軍隊で、国民の軍隊ではなかった。こういったシーンは「兵士たちの戦後史」(吉田裕著、岩波現代文庫)にもある。一方の敷島も、一人生き残ったという罪悪感(サバイバーズ・ギルト)に苛まれる。この心理状況を克服するため、自らの戦争を終わらせることを決意する。それが、命を懸けてゴジラと対峙することにつながる。

 夜間の来襲=サーチライトの多用(東京大空襲の再現)を印象付けたオリジナルに比べ「-0.1」の東京攻撃は昼間のシーンが多く、空襲=戦禍の印象が薄い。戦争の記憶に頼らず、ゴジラそのものを恐怖の存在として視覚的に際立たせる点にエネルギーが注がれる(それだけ「戦争」の記憶が遠ざかったということか)。
 ただ、復員省(海軍省・陸軍省の後継)の命で日本近海の掃海作業を、木製船を使って行ったエピソードは、朝鮮戦争当時に実際にあり死者も出た。このあたり時代の影がのぞく。ここで敷島は元海軍技術士官・野田健司(吉岡秀忠)らと出会う。野田は、オリジナルのオキシジェン・デストロイヤー発明者・芹沢大助の役割を担う。

 全体としてみれば、川本が指摘した「暗さ」はなく、敷島は「自らの戦争」に決着をつけ、自由と希望に満ちた未来を切り開く存在として描かれる。このあたり、戦後思想の呪縛から逃れえなかった従来のゴジラ映画と一線を画している。念のため言えば「シン・ゴジラ」は現代を舞台に日本の安全保障に焦点を当てた。潮目が変わったのはこの作品からと思われる。これまでの「ゴジラ」が戦後映画なら、近2作は「ポスト戦後」映画の範疇かもしれない。
 2023年.監督は「ALWAYS 三丁目の夕日」の山崎貴。

ゴジラ.jpg


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