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創作意欲はどこから生まれるか~映画「小説家の映画」 [映画時評]


創作意欲はどこから生まれるか~映画「小説家の映画」


 書けなくなった小説家が、書店を営む後輩を訪れる。そこから人の輪が転がり、小説家の原作の映画化に挫折した監督夫婦、売れなくなった女優、詩人へとつながり、最後に偶然にも書店経営の後輩に行き着く。そうしたローリングストーンズの中で、小説家は女優と映画を撮ることを思いつく。

 小説であろうと映画であろうと、創作意欲は人のつながりの中でかきたてられる。そういっている。例えば、詩人(小説家の古い飲み友達だった)と「物語の力を信じるか」が議論になり、小説家は否定する。「映画をつくる」話なのに、製作過程は出てこない。とりとめのない会話と人のつながりをモノクロ画面で見せる。監督の意思が感じられる。

 ラスト近くで出来上がった短編が流れる。一部カラー。ストーリーは見当たらず、ただ女優の表情だけが印象的。この後、試写を見て戸惑う女優の表情が映し出される。

 監督は「逃げた女」など多数の話題作を持つホン・サンス。小説家ジュニにイ・ヘヨン。女優ギルスにキム・ミニ。私生活に目を転じると、ホン・サンスは離婚訴訟の末に敗訴、キム・ミニとの不倫関係を解消できずにいる。国内はともかく、海外では夫婦として振る舞っている。
 この微妙な関係が作品に影を落としている。作中の映画も、ストーリー上は女優の夫の甥が撮影担当だが、ホン・サンス自身が撮っているようだ。そのためか、女優は自然でいい表情をしている(公園で小説家が見かけた時とは随分違う)。この表情は二人の関係が引き出したのではないか。

 シンプルで抑揚がない。読み方は10人が10人違う。そんな作品である。冒頭の口論シーンを除いて、韓国映画には珍しく感情が表に出ていない。映画というより私小説を読んでいるようだ。モノクロを基調にしたのも、そうした味わいを計算してのことだろう。
 2022年、韓国。

小説家の映画.jpg


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