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「教育」と「南北」軽妙なタッチで~映画「不思議の国の数学者」 [映画時評]

「教育」と「南北」軽妙なタッチで
~映画「不思議の国の数学者」


 164年前にドイツの数学者が素数の並び方について推論を立てた。ところが、正しさを証明できなかった。そのリーマン予想を証明した数学者が北朝鮮から韓国へ脱出、身分を隠したまま、私立高校の警備員をしていた…。
 念のため言っておくと、リーマン予想はいまだ証明されていない。この部分はフィクションである。それはさておき。

 舞台は韓国内の上位1%が入る超難関高。ただ、母子家庭などの特例入学枠があるらしく、ハン・ジウ(キム・ドンフィ)もその一人。成績は芳しくなく、特に数学は苦手。一般高校へ転校を迫られ悩んでいる。
 無愛想で取り付く島のない警備員イ・ハクソン(チェ・ミンシク)は、勤務の合間に難解な数式と取り組んでいた。素顔は北朝鮮トップの数学者。しかし、研究実績が兵器開発に利用されることに疑問を持ち、学問の自由を求めて息子と脱北した。父の行動についていけない息子は北へ再入国を図り(越北というらしい)、韓国軍に射殺された。
 北の現実に失望したハクソンは、出世の道具にされた韓国の学問の在り方にも疑問を持つ。そんなとき出会った落ちこぼれジウに、本物の数学とは何かを教える。解答を効率的に求めるのではなく、問そのものが正しいかを確かめること。大切なのは思考の過程であること。こうしてジウの成績は急速にアップしたが、受験対策にこだわる教師と対立する。
 そんな折り、韓国内で横断的に競われる数学賞(ピタゴラスアワード)の問題が漏洩。自身の数学論文の出力のためPC室に入ったジウが疑われ、一般高校への転校が避けられない情勢に…。息子を亡くした悔悟から脱北の事実を隠し続けたハクソンは、窮地のジウを助けるため、ついに身分を明かす。

 超学歴社会・韓国の教育事情を背景に、朝鮮半島の南北問題をうまく取り込み軽妙なタッチで仕上げた。ラストへなだれこむ筋書きは芝居がかっているが、そこは韓国ならでは。インテリといえばインテリ、労働者と言えば労働者、という微妙な役どころを、チェ・ミンスクはうまく演じている。
 2022年、韓国。監督パク・ドンフン。


不思議の国の数学者.jpg



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