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重なる精神の飢餓~映画「渇水」 [映画時評]


重なる精神の飢餓~映画「渇水」


 群馬県内と思われる、ある市の水道局職員が主人公。料金滞納の家庭を訪ね歩き、水道法15条第3項による停水措置を実行している。止められる方は反発するが、規則に従い淡々と作業する。

 岩切俊作(生田斗真)がある日、同僚の木田拓次(磯村勇斗)と訪れた家庭は母・小出有希(門脇麦)と小学生の姉・恵子(山崎七海)、妹の久美子(柚穂)がいた。父は消息が知れなかった。一度は見送ったものの2度目の訪問では母も出奔。やむなく幼い姉妹の前で停水を行った。
 岩切は妻・和美(尾野真千子)と子との関係がうまくいかず、一人暮らしを強いられていた。時折、実家を訪れても会話はぎくしゃくするばかり。孤独を内に抱え、滞納家庭の水道を止めて歩く生活…。
 収入のあてもなく水まで止められた姉妹は困窮した。公園や近所の庭の水道を盗んだものの、それもかなわなくなってスーパーで飲料水を万引き。店長にとがめられるところを偶然見た岩切の心の中で何かが崩れた。

 ここまで書けば分かるが、水のない生活という現実をベースに、岩切や幼い姉妹の愛のない生活が招く精神の飢餓が、後半に描かれる。

 ついに、姉妹の家庭の水道を開放する岩切。それだけでなく、公園で思い切り姉妹と水をかけあって戯れる。見とがめた水道局の上司にも抵抗、「このままではダメなんだ」と叫び、警察に留置される。
 しかし、こうした精神の決壊が、岩切の家庭を思わぬ方向へと導いていく。

 「渇水」という社会状況と「精神の飢餓」という内面の危機を重ねる構図がベタで、中盤あたりから結末が見えるところが難だが、まずまず良くできた作品といっていい。
 2023年、監督髙橋正弥、白石和彌プロデュース。原作は河林満。芥川賞候補作。

渇水.jpg


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