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飾りがない分、心に刺さる~映画「ケイコ 目を澄ませて」 [映画時評]

飾りがない分、心に刺さる~映画「ケイコ 目を澄ませて」


 生まれつき聴覚障害を持つ小河ケイコ(岸井ゆきの)は、荒川沿いの下町にあるボクシングジムに通っていた。プロテストに合格、デビュー戦も勝利した。そんな彼女を会長(三浦友和)は、メディアの取材に「才能はないなあ。体も小さいし。だけど性格がいい」と答える。不器用でまっすぐな彼女の生き方を、温かく見守っている。

 単純にボクシング映画とも、青春映画ともいえない。石段を一つ降りたところにある古びたジム。既視感のある懐かしい風景だ。再開発の波が押し寄せ、ジムを閉鎖しなくてはならない。そんな背景もある。懐かしい画調はどこから来るのだろう、と思ったら16mmフィルムで撮ったのだという。
 ジム閉鎖を前に、ケイコの預かり先を探して会長らが奔走するシーンがある。見つけだした受け入れ先を、ケイコは「遠いから難しい」と断ってしまう。聴覚障害がある彼女に特別な計らいをしているようにも見える。これ見よがしなところに、しっくりこないものを感じたケイコ。結局、古いジムで第2戦を戦ったが、相手の反則もどきの行為に感情のコントロールができず、KOで負けてしまう。
 彼女の性格もだが、全編けれんみのない、ドキュメンタリーかと思うようなまっすぐな映画である。

 難聴のボクサー小笠原恵子の自伝を、「君の鳥はうたえる」(2018年)の三宅唱監督が映像化した。そういえばどこか、佐藤泰志の小説に似た味わいがある。飾りがない分、心に刺さる。岸井ゆきのはロケ前の3か月、ボクシングに取り組んだという。三浦友和がいい味を出している。
 2022年製作。


ケイコ 目を澄ませて.jpg


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