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良心的兵役拒否者を描く~映画「名もなき生涯」 [映画時評]

良心的兵役拒否者を描く~映画「名もなき生涯」

 

 主義のためでも思想のためでもなく、まして国家のためでもなく戦争に反対した、いわゆる良心的兵役拒否者を描いた。美しくも淡々とした日常。拘束された後の重ぐるしさ。それらが3時間近く展開される。起伏やメリハリに欠ける、といった不満は出てくるかもしれないが、一方で重厚さと正統派のつくりは一見の価値ありといえる。

 1939年のオーストリアの山あいの村ザンクト・ラーデグントに住むフランツ・イエガーシュテッター(アウグスト・ディール)は、妻ファニー(ヴァレリー・バフナー)と3人の娘とともに平穏に暮らしていた。しかしその前年、オーストリアはナチスドイツに併合され、戦争の足音は確実にこの村にも迫っていた。

 40年にエンス基地に招集され軍事訓練を受けたフランツは、キリスト教の教えに従い罪のない人間を殺すことに疑問を覚え、周囲にも漏らす。しかし、若者は次々と戦争に駆り出され、村人の気持ちもたかぶり荒んでいった。そんな中、戦争のための寄付金を断り、神父から「祖国への義務」と説かれても「兵役拒否」を変えないフランツは「裏切者」と呼ばれ、共同の農作業さえ拒否された。

 そんなフランツに召集令状が届く。出頭したもののヒットラーへの忠誠を拒み、囚われの身に。1943年のことである。軍事法廷が開かれ、神父や弁護士から「嘘でもいいから忠誠を誓えば命は助かる」と助言され、判事(ブルーノ・ガンツ)からも内々に「だれもお前の声を聞いてはいない。無駄なことだ」と諭されるがフランツは考えを変えなかった…。

 山岳映画かと思うほど、オーストリアの美しい自然の描写が印象的。その中で流れる家族とのゆったりとした時間。これらに囲まれたフランツのまぎれもない愛郷心が、そのまま国家愛やナショナリズムに結び付かないことの不幸。それが描きたかったことであろう。当初は信仰心から兵役を拒否したフランツだが、最後には「キリストは犬死だった」「この2000年は無駄な2000年だった」と宗教への懐疑さえ口にする。

 念のためいえば、日本国憲法19条には「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」とあり、戦時下でも良心的兵役拒否は守られる。そのことの意味と重さを知るだけでも、観る価値はある。

 2019年、米独合作。監督はテレンス・マリック。実話に基づくという。ジョージ・エリオットの詩からとったというタイトル(A HIDDEN LIFE)はとてもいい。歴史は英雄ではなく、名もなき人々によってつくられたのである。



名もなき生涯.jpg

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