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ヒトラーは儲かる~映画「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命」 [映画時評]

ヒトラーは儲かる~

映画「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命」

 

 先日、ある新聞で「ヒトラーは儲かる」という開高健の言葉が紹介された【注】。エッセイからの引用らしいが、原典は分からない。別段、ヒトラーを賛美しているわけではなく、彼ほど「あの世」から呼び戻される人間は、歴史上ほかに見当たらないとの趣旨だった。それにしてもこの言葉、サントリー宣伝部にいたという開高らしい表現だ。言い方を変えると、ヒットラーやナチスドイツを題材にすれば、無条件で作品が成立してしまうところがある。この「ユダヤ人を救った動物園」も、そうした映画だった。

 時代は、独ソ不可侵条約が結ばれた1939年から第二次大戦が終わった直後まで。独ソ不可侵条約締結直後の39年9月1日には、ナチスドイツが電撃的にポーランドを侵攻した。

 このころ、ワルシャワ動物園を管理していた夫婦、ヤン・ジャビンスキー(ヨハン・ヘルデンベルグ)とアントニーナ・ジャビンスキー(ジェシカ・チャスティン)が主人公。これに、夫妻の友人でドイツの生物学者、ベルリン動物園長ルッツ・ヘック(ダニエル・ブリュール)が絡む。ドイツの侵攻でワルシャワ動物園も大きな被害を受ける。檻から逃げた動物たちはポーランド軍に射殺された。その後、ナチス将校として現れたヘックは、動物をベルリンに移送することを提案。やむなくアントニーナは夫で園長のヤンが不在のまま、受け入れる。しかし、冬が迫るとヘックは、このままでは越冬は困難と次々に射殺してしまう。こうした行動にヤンの不信感が募る…。

 ワルシャワにはユダヤ人の街ワルシャワ・ゲットーが造られ、鉄条網で囲まれる。ここから一人でも多くのユダヤ人を助けたい。そういう思いで、ヤンは動物たちのいなくなった園内で豚を飼うことを思いつき、その餌集めの合間にトラック荷台に隠したユダヤ人たちを動物園内にひそかに運び込む。ヘックとヤン、あるいはヘックの機嫌をとりながら対応するアントニーナの、緊迫のやり取りが展開される。

 ヨーロッパ戦線の戦況は大詰めへ向かう。ヤンはワルシャワ武装蜂起(1944年のものと思われる。1943年にワルシャワ・ゲットーで武装蜂起が起きたが、これではないようだ)に参加、銃弾を受け、行方不明となる。

 戦争が終わり、ワルシャワの廃墟に人が戻る。動物園跡にもアントニーナが帰ってきた。そしてヤンは…。

 ナチスドイツ侵攻下のワルシャワの人々の暮らしをそのまま写し取り、ここに「動物園の管理者」というキャラクターを加えて独自性を出した。個人的には、もう少し歴史的背景が詳しく描かれていれば興も増したと思う。そして、ヒトラーへの忠誠と友情の間で悩むヘックの心情をもっと彫り深く描けていれば。その中で、観た感想を率直に言えば「ヒトラーは儲かるなあ」である。

 2017年、米・英・チェコ合作。邦題は何とも気恥ずかしい。原題はThe Zookeeper's Wife(動物園飼育係の妻)と簡単明瞭。作品の最後で、この動物園によって300人のユダヤ人の命が救われたと紹介されるあたり、作品化にユダヤ資本のにおいがしないでもない。

【注】1224日付朝日「日曜に想う」(福島申二編集委員)

ユダヤ人を救った動物園.jpg


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