運命の妙と月日の流れ~映画「エルネスト」 [映画時評]
運命の妙と月日の流れ~映画「エルネスト」
運命の妙を感じさせる映画である。
エルネスト・チェ・ゲバラは1959年、広島を訪れる。平和公園の原爆慰霊碑を訪ね、「安らかに眠って下さい/過ちは/繰返しませぬから」という碑文の意味を問う。そして「なぜここには主語がないのか」と疑問を投げかけた。
2016年5月、慰霊碑前で短い演説をしたオバマ大統領は、「死が天から降ってきた」と述べ、主語を語らなかった。
ゲバラはオバマと真反対の反応を、慰霊碑前で見せた。分けたものは「米国への想い」だった。ゲバラは怒りを込め、オバマは忠誠を誓った。
キューバ危機は1962年に起きた。キューバの基地にソ連の核ミサイルが配備され、米国の危機感は最高度に高まった。それは現在の北朝鮮のそれどころではなかっただろう。目と鼻の先、米国の裏庭とも呼べるカリブ海に核ミサイルが置かれたのである。戦後最も核戦争が近かったときと、今も言われている。
キューバ危機のさなか、ハバナ大学にボリビアから医大生が入学した。日系2世のフレディ前村ウルタード(オダギリ・ジョー)。フィデル・カストロ(ロベルト・エスピノーザ・セバスコ)とともにキューバ革命を主導し、「核戦争に勝者はいない」というゲバラ(ホアン・ミゲル・バレロ・アコスタ)に心酔し、米国の傀儡政権樹立の動きに対抗してボリビア内戦にゲバラとともに身を投じる。
内戦のさなか、ゲバラは1967年に戦死する。ゲバラの命名で「エルネスト・メディコ」を名乗ったフレディもその直前にゲリラとして壮絶な死を遂げる…。
映画はむしろ、淡々と事実を追っているように見える。しかし、その背後には一人の日系の若者を駆り立てずにはおかなかった「歴史の歯車」もしくは「運命の妙」のようなものを感じさせる。
ゲバラは今から半世紀前、若者にとって「叛逆の象徴」だった。そのゲバラとともに戦った若者の軌跡が商業映画の題材になった。あらためて月日の流れをも感じる。
2017年、日本・キューバ合作。
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