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戦争の非人道性を正面から描く~映画「ヒトラーの忘れ物」 [映画時評]

戦争の非人道性を正面から描く~映画「ヒトラーの忘れ物」

  デンマークは第二次大戦中、ナチによってほとんど戦闘もないまま占領・保護下に置かれたが、ドイツ降伏によって19455月解放された。戦時中、ナチスドイツは大西洋の壁と称して長大な海岸線防御網を構築。特に、遠浅が続くデンマークの海岸線は米英の上陸作戦を警戒、莫大な数の地雷を埋めた。
 現在は、対人地雷禁止条約(オスロ条約)によって国際的には戦争中であっても地雷を埋める行為は禁止されている。しかし、米中露が批准しておらず、効果は疑問符がつく。実際、今も多くの紛争地域で無数の地雷が使われていると思われる。米中露3カ国が批准しない背景には朝鮮半島情勢があるともいわれる。38度線を挟んで「休戦状態」である朝鮮半島では戦争は継続状態にあり、休戦ライン周辺には莫大な数の地雷が埋め込まれているとも聞く。こうした情勢が、対人地雷全面禁止を求める国際世論に影を落としている。
 再び1945年のデンマークに戻る。映画では、ナチスドイツによる対人地雷の敷設を含め、三つの非人道的な行為が描かれている。一つは少年兵の存在。これも現在ではジュネーブ条約などで禁止されているが、発展途上国などではいまだに少年兵が存在する。もう一つは、地雷撤去に捕虜を使うという、ジュネーブ条約違反(捕虜虐待)。
 ここでいう三つの非人道的行為は、すべてナチスドイツに責任があるとは言い難い。英国からの指令によるとされているが、捕虜を非人道的に扱った行為は、デンマークの歴史的な闇の部分といえるだろう。
 映画は、19455月、即ちドイツ降伏の時点から始まる。デンマークの軍曹(イギリス風の軍服を着ている)が、ドイツの少年兵11人をある海岸に連れていく。任務は、少年兵に地雷の扱いを教え、45000個を撤去すること。しかし、誤爆が相次ぎ、少年兵は4人に減ってしまう。ようやく地雷撤去を終えたと思ったとたん、軍上層部からはスカリンゲンの海岸に埋められた72000個を撤去するよう命令が下る…。
 デンマークの海岸線には総数150万個の地雷が埋められたといわれ、母国へ帰還できなかったドイツ兵2000人が撤去作業に従事、約半数が命を落としたという。そして、スカリンゲンの海岸には今も撤去されない地雷が残るという。
 ドイツ、デンマーク合作。両国にとっては、触れられたくない戦争の傷跡であるに違いない。にもかかわらず、フィクションであるとはいえ、このようなシリアスな映像にする見識の確かさに敬意を表したい。

ヒトラー忘れもの.jpg


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