描かれたのはスペインそのもの~濫読日記 [濫読日記]
描かれたのはスペインそのもの~濫読日記
「さもなくば喪服を 闘牛士エル・コルドベスの肖像」
その日は雨だった。砂の足元は滑りやすい。下手をすれば死人が出る。興行主は中止すべきかどうか、迷った。だが、男は平然と出ていった。闘牛場の中央へ。
1964年5月20日。28歳でスペイン闘牛界の頂点に立つ男、エル・コルドベス(コルドバの男)ことマヌエル・ベニテスは、左目が見えずインプルシボ(癇癪もち)と呼ばれる牡牛と壮絶な死闘を繰り広げた。テレビ中継され、国民は熱狂した。スペインの社会活動は停止状態に陥ったといわれる。そして、エル・コルドベスを中心にしたこのころのスペイン闘牛界は「狂った1960年代」と呼ばれた。
スペイン内戦が始まった1936年、アンダルシアの寒村で生まれた男はなぜ、闘牛士をめざしたのか。街頭での素人闘牛にのめりこんだ少年時代。勇気と野心だけでフランコ体制下のスペインをのし上がった男の内面とともに、スペインそのものを描き切ったノンフィクションである。関係者の証言を重ねる中で生まれる緊迫感。奇跡の書といってもいい。
「泣かないでおくれ。今夜は家を買ってあげるよ。さもなくば喪服をね」。初めて闘牛場に立つ日、飢餓に苦しむ若者は、こう姉に告げた。この言葉がタイトルになっている。著者のラリー・コリンズ、ドミニク・ラピエールは「パリは燃えているか」のコンビでもある。
(早川書房、2005年、2600円=税別)
さもなくば喪服を (ハヤカワ・ノンフィクション・マスターピース)
- 作者: ドミニク・ラピエール
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/06/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
2017-01-21 14:23
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