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沖縄をめぐる虚構を暴く~濫読日記 [濫読日記]

沖縄をめぐる虚構を暴く~濫読日記

「沖縄の<怒>日米への抵抗」(ガバン・マコーマック+乗松聡子著)

沖縄の怒り_001.JPG 「沖縄の<怒>」は法律文化社、2800円(税別)。初版第1刷は201341日。ガバン・マコーマックはメルボルン大卒、ロンドン大で博士号取得。1990年からオーストラリア国立大教授。専攻は東アジア現代史。京都大、立命館大などで客員教授。著書に「属国―米国の抱擁とアジアでの孤立」(凱風社、2008年)など。乗松聡子は東京生まれ、カナダ西海岸に18年在住。慶応大文学部卒。2007年に「ピース・フィロソフィー・センター」設立。日本とアジア太平洋地域の平和・人権・社会正義について英語と日本語で研究、執筆活動を行う。訳書「広島・長崎への原爆投下再考―日本の視点」(法律文化社、2010年)。 












 歴史学者でオーストラリア国立大名誉教授のガバン・マコーマック氏とカナダ在住の平和運動家・乗松聡子さんの共著。捨て石にされた沖縄、「同盟」にほんろうされた沖縄、基地に虐げられた沖縄。そうした姿を歴史、政治、経済の側面から浮き彫りにした。

 14世紀以降の琉球王国の歴史から書き始めた「序章」で、印象的な言葉があった。沖縄は「劇場的国家」であったという。最初の時代は、薩摩侵攻によって幕藩体制に取り込まれた時代。琉球国は、中国との柵封・進貢関係を維持するため「独立」を装う一方、江戸上がりの使節団は中国風衣服を着ていたという。そうして江戸幕府は「異国」琉球の使節団に忠誠を誓わせた。

 「劇場的国家」第2幕は「琉球」が「沖縄」になった1972年に始まる。施政権返還の年だ。まず、施政権「返還」は実は施政権「購入」だった。そして「返還」とは名ばかりの米軍「占領」が続けられた。第三、沖縄の米軍駐留を望んだのはアメリカではなく日本自身であった―。

 日本、中国、アメリカという大国のはざまで、小さな島々からなる独立王国「琉球」がたどってきた歴史を語るのに、この「劇場的国家」ほど適切な言葉もないだろう。

 この言葉は様々な概念に波及する。太平洋戦争末期、「鉄の暴風」と呼ばれた沖縄戦があった。この時、沖縄の民間人は軍による「強制集団死」を強いられた。教科書検定問題(2006年)や大江健三郎氏「沖縄ノート」名誉棄損裁判(20052011年)でも「軍関与」論争があったが、ここから派生する問題として、当時一般的に使われた「集団自決」は軍の役割を過小化してはいないか、という批判があった。この視点に立って、この書では「強制集団死」を使っている。のほか、「強制的集団自殺」「「軍事的他殺」を使う研究者もいるようだ。「集団自決」は1950年、沖縄タイムス発行「鉄の暴風」で使われ、一般化した。戦後60年余を経てなお虚構性を含み、歴史的事実が確定することのない沖縄の「劇場性」を、ここにも見ることができる。

 「虚構」といえば、米軍駐留自体も虚構に満ち満ちている。いうまでもなく沖縄での米軍の存在を裏付けるのは日米安保条約である。その第6条で「日本国の安全」と「極東における平和及び安全の維持」に寄与するため、アメリカは日本に部隊を駐留させる権利を持つ、とされる。しかし、沖縄駐留米軍の主力は海兵隊であり、日本の防衛にあたっているわけではなく、これまでベトナム、中東、イラク、アフガン戦争に出動してきている。そういう意味では「極東」条項にも違反している。沖縄の方言でウソのことを「ユクシ」という。そこから「抑止」=ユクシ(ウソ)と揶揄するのだそうだ。そういえば、鳩山由紀夫氏は首相を降りた後、沖縄駐留米軍を抑止力と呼んだのは「方便」であったと語った。

 鳩山首相は「米軍基地の県外移転」を主張したが、結局ホゴにした。「方便」発言はその後のことである。この時の鳩山の降伏を東京大の篠原一は「日本の二度目の敗戦」と位置づける。琉球新報の松元剛はさらに踏み込んで鳩山個人の資質の問題ではなく①抑止力の虚構②対米従属と官僚支配の構造③沖縄差別―という三つの核心から目をそらしてはならないという。

 かつて、沖縄は基地によって経済的に潤っていると言われた。しかし、この点も虚構だと琉球新報の前泊博盛(現・沖縄国際大教授)はいう。基地は沖縄経済にとって「パラサイト」であり、基地返還を受けた地域では雇用が23倍、税収が52倍に増えた例があるという。

 沖縄は歴史的に「劇場性」を身にまとうことを強いられた地域である。そのことによって生じた虚構性のベールを一枚ずつ、丹念にはがしていく作業を重ねた書である。

沖縄の〈怒〉: 日米への抵抗

沖縄の〈怒〉: 日米への抵抗

  • 作者: ガバン マコーマック
  • 出版社/メーカー: 法律文化社
  • 発売日: 2013/03/25
  • メディア: 単行本



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