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「ジャーナリズム」をあらためて考える [濫読日記]

「ジャーナリズム」をあらためて考える


「言論の自由 拡大するメディアと縮むジャーナリズム」

                                           (山田健太著)

山田健太著_001.JPG  「言論の自由 拡大するメディアと縮むジャーナリズム」はミネルヴァ書房「現代社会のフロンティア⑳」。初版第1刷は20121230日。2800円(税別)。山田健太氏は青山学院大法学部卒。日本新聞協会、英エセックス大客員研究員、日本新聞博物館学芸員を経て専修大教授、早大、法政大講師。専門はジャーナリズム。日本ペンクラブ理事、言論表現委員会委員長。












 

 インターネットやソーシャルメディアの発達によって近年のメディアの拡張は著しい。しかし、ジャーナリズムがそれに歩調を合わせているかといえば、むしろ衰退、劣化の道をたどっている。ジャーナリズム再生はあるのか。そもそも、なぜジャーナリズムは必要か。このあたりに、著者の問題意識がある。

 「なぜ『プレス』は特別なのか」という章では、日本的パブリックジャーナリズムの成立を「お布施ジャーナリズム」と呼んでいる。米国などで寄付行為やNPO団体によって成り立つメディア活動が「読んでも読まなくても新聞代を払い、見ても見なくてもNHK受信料は払うことで、日本の新聞や放送は一定の水準を維持した取材・報道を実現してきた」のであり、そのことで「権力監視も含め社会正義が実現してきた」という。

 「民主主義の基礎に関わる特別な商品」(1983年、奥村栄一公取委取引部長=当時)としてプレスは、もちろん自助努力を前提としてだが、社会的に制度的保障がなされてきたことは事実であり、その意味は今も薄れていないと著者はいう。ここでプレスとはもともと新聞のことであるが、テレビ、通信社も加えた広義で使われている。そのうえで、プレスの特権にかかわる二つの問題を取り上げている。

 一つは再販制度と消費税軽減税率である。ここで「知識課税は為政者の表現の自由に対する攻撃の象徴」であり、根底に「言論報道活動には税をかけない」という「思想」が欧米にあるとしているが、無条件に再販制度維持を主張しているわけではない。「再販」維持がなければ部数が保てないという新聞業界の本音と、国民の知る権利・表現の自由を守るために必要な制度、という建前とのかい離を埋めない限り、市民の信頼は失われ、存在意義は失われると警告する。ジャーナリズム、文化、憲法の問題からの理論的再定義が必要だということである。

 もう一つは、記者クラブ制度の問題である。この問題を考えるにあたっては、これまで慣例的にあった言論機関に属する企業ジャーナリストが既得権益的に社会的評価を受けた時代が去り、ジャーナリストの射程範囲が大きく広がって「個の取材・報道活動によって評価される時代」に変わりつつあるとの認識を示す。こうした時代の流れは「新聞が最も高尚なジャーナリズム」という序列を突き崩し「記者室・記者会見の完全開放」という動きを生んでいる。

 ここで著者は、記者クラブの問題と記者室開放を分離して考えることを提案する。

 まず記者室は完全分離し原則完全オープンとする。会見もオープンにする。

 一方、記者クラブについては、従来の親睦団体ではなく①監視機能②協働機能③双方向機能―の三つの機能への特化を求める。②は報道機関が連携して権力の側と対峙し、情報公開を求めたり、分析作業を進めたりする機能、③は市民の声を吸い上げ、権力の側にぶつける機能のことである。そのうえで①横並び②なれあい③たかり―の体質を排除すべきとする。この延長線上で、報道機関による審議会・諮問委員会への参加禁止を求める。マスコミ企業上層部が当局の審議会などに参加していては、末端の記者クラブでの癒着は防げないということである。敷衍して言えば、記者クラブ問題はマスコミ企業の〝病理〟に端を発しており、マスコミ企業本体の体質改善がなければ、抜本的解決は期待できないと著者は主張する。短期的にはクラブ問題は制度の問題だが、中長期的には「ジャーナリズム」の問題であり、クラブは完全開放よりプロのジャーナリスト組織として再生させることが肝要というのが、著者の見立てである。

 権力監視と言論の自由を守るため、プロフェッショナルなジャーナリストを育てる。そのための制度的保障を整える。それは民主主義社会の維持装置として言論機関が必要であるから。これが著者の見解である。部分的には同感する向きも、異論を唱える向きもあるだろう。それはともかく、ジャーナリズム再生を考える上でベーシックな書であることは確かだ。


言論の自由: 拡大するメディアと縮むジャーナリズム (叢書 現代社会のフロンティア)

言論の自由: 拡大するメディアと縮むジャーナリズム (叢書 現代社会のフロンティア)

  • 作者: 山田 健太
  • 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
  • 発売日: 2012/12/30
  • メディア: 単行本

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