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映したものは~映画「旅芸人の記録」 [映画時評]

映したものは~映画「旅芸人の記録」


 「旅芸人の記録」(1975年、ギリシャ)を見た。日本での公開は1979年だから、30数年ぶりの再見である。

 この作品の監督テオ・アンゲロプロスが亡くなったのは1月、ロケ先での交通事故だった。しかし、もう過去の人であるらしい。ほとんどの新聞は反応しなかった。ある映画館はそれでも、彼の作品の追悼興行を行った。午後、訪れた映画館は意外な入りだった。数十人はいただろう。

 4時間に近い大作で、動きもセリフも少ない。映像はむしろ単調である。しかし、なぜか引き込まれる。この感じは30年の時を経て、少しも変わらない。

 1952年、ある選挙の直前から物語は始まる。戦時下の1939年、ドイツ軍撤退による終戦、戦後の内戦。ギリシャ動乱の時代が、ある旅芸人一座の目を通して描かれる。彼らにはアガメムノン、エレクトラといった名がかぶせられ、ギリシャ神話がこの物語に通底していることが暗示される。

 よく知られているが、アンゲロプロスの手法は一つのシークエンスの中で時制が移転すること、長回し、360度パンである。この手法によって、映画はギリシャの風土と歴史を縦横に駆け回る。重そうな衣装ケースをもった旅芸人の一座はその舞台回しの役割を果たす。あの衣装ケースには何が入っているか。アンゲロプロスが映したかったもの。あるいは映そうとして映せなかったもの―。それはなにか。

 それにしても、古くならない。この映画は。


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