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真実はディテールに宿る~濫読日記 [濫読日記]

真実はディテールに宿る~濫読日記


「プロメテウスの罠 明かされなかった福島原発事故の真実」

朝日新聞特別報道部

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 「プロメテウス―」の初版第1刷は2012年3月13日。定価1238円。Gakken刊。朝日新聞特別報道部は報道局内の調査報道専門チーム。

 











 開くと、数葉の写真。すでに見慣れたのもある。3号機の水素爆発など何度目にしたことか。続いてSPEEDIの、外部被曝線量の試算値を落とした地図。その次に、「はじめに」と題した文章。執筆者は朝日新聞社編集担当、吉田慎一。

 この名前を目にして、この企画がどのような動機によって成り立ったか、その一部が垣間見えた気がする。そもそも、このような企画記事の巻頭文を、新聞社の編集担当が書くということが、きわめて異例のことだろう。

 吉田慎一。この名を目にして、ある一冊の本を思い浮かべる人は、少なくない。その本とは「木村王国の崩壊 ドキュメント福島県政汚職」。「福島のロッキード事件」と呼ばれた県政汚職は1976年春から夏にかけて起きた。この事件の全容を、事実を一つ一つ積み上げる形で記事にし、福島版に連載が打たれた。おそらく福島支局が総力を挙げて取り組んだだろうが、中心となったのは入社2年、警察担当だった吉田記者だったという。当初100回をめどとした連載は1年半、235回におよび、新聞協会賞をとった。カネの受けわたしが行われたとき、当事者は何を食っていたか。すき焼きか、それとも別のものか、そこまで取材して書いたといわれる。何の意味があるのか、と問う人もいるかもしれないが、真実はディテールに宿るのである。

 この精神で始まったのが、「プロメテウス―」であろう。もちろん、この1冊にこめられたものは、物語の「序曲」である。それにしても、福島原発1年の事実の重さ。それだけではない。福島県民だけでなく、なんと多くの人々の「人生」が交錯していることか。

 「木村真三」の名を知ったのは、NHKで「ネットワークでつくる放射能汚染地図」を手掛けた七沢潔の講演を聞いた時だった。木村は震災の日、放射線衛生学の専門家としてある研究所に勤めていた。福島原発事故をテレビで見て「いま調査をやらなくていつやるんだ」と辞表を出し、福島に向かう。もちろんこれは軽い決断ではない。なぜ彼には、このような行動がとれたか。記事は木村のたどってきた人生にも及ぶ。

 このほか、事故に対応できぬ官僚機構のお粗末さ、内部被曝の恐怖―言い換えれば、広島、長崎の体験の科学的な意味での空疎さ―にも筆が及ぶ。そして極めつけは、事態に対応できなかった官邸の右往左往である。

 間違いなく、福島原発事故以降(これは「以降」でいいのか。事故はまだ続いているのではないか)の日本の記録は残されなければならない。その一つの試みであることは間違いない。

プロメテウスの罠: 明かされなかった福島原発事故の真実

プロメテウスの罠: 明かされなかった福島原発事故の真実

  • 作者: 朝日新聞特別報道部
  • 出版社/メーカー: 学研パブリッシング
  • 発売日: 2012/02/28
  • メディア: 単行本



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