読んでから観よ~映画「ドラゴン・タトゥーの女」 [映画時評]
読んでから観よ~映画「ドラゴン・タトゥーの女」
観てから読むか、読んでから観るか、という問題がある。わたしの場合、できるだけ事前に原作にあたって、それから映像を観る。だがこの「ドラゴン・タトゥーの女」は、原作にあたる暇がなかった。そのことをいま、悔いている。
この映画は時間軸、水平軸(人間軸)とも複雑であり、おそらくどんなに映像にこだわったとしても全容を伝えるのは難しいだろう。したがってこれは、物語の表象としての映像を味わうべきだと思う。
経済誌の発行責任者であるミカエル・ブルムクヴィスト(ダニエル・クレイグ)は、ある実業家の不正を記事にする。しかし名誉棄損で訴えられ裁判で敗れる。ミカエルは雑誌社を離れる。そのミカエルの身上調査をする男がいた。ある財閥の前会長ヘンリック・ヴァンゲルだ。彼はある昔の事件に、いまだにとらわれている。それは、一人の少女の失踪に始まる。
ミカエルは、ヘンリックから事件の解明を求められ、引き受ける。手元には、暗号に似て謎に満ちたメモがある。彼にはアシスタントが必要だ。そのとき、現れたのはミカエルの身上調査をしたリスベット・サランデル(ルーニー・マーラ)。やせて小柄な、暗い顔つきの女性だ。しかし、ハッカー技術は天才的で大型バイクを乗りこなす。凄惨な過去を持ち(具体的な事実は分からない)、後見人が付く。その後見人、弁護士だがこれがろくでもなく、彼女をレイプする。リスベットは復讐のため男の体に「わたしはレイプ魔の太った豚」と刺青をする。彼女の背にも、ドラゴンの刺青がある。
ミカエルとリスベットのコンビが、40年前の事件をあぶり出す。そこには、隠された連続殺人の痕跡があった―。
映画として圧巻はやはり、リスベットの個性である。謎めいた足跡。なぜ彼女には後見人が必要なのか。鋭い感性を持ちながら、必要以上のことには答えない。閉ざしていながらも、ミカエルに惹かれていく揺れる心。
これらのストーリーがスエーデンの冷やかな風景の中で展開する。陰鬱でありながらスピード感あふれる映像は見事である。おそらく読んでから観れば、興は倍増するだろう。監督はあの「セブン」のデビッド・フィンチャーだ。ただし結末は、最近の石原慎太郎の口癖をまねれば「センチメント」でやや拍子抜けする。
原作はスエーデンの作家スティーグ・ラーソン(元ジャーナリスト)による最初でかつ絶筆の3部作。30か国以上で800万部が売れたらしい。
ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
- 作者: スティーグ・ラーソン
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/09/08
- メディア: 文庫
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