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「裸の王様」もここまで徹底すれば立派~秋葉市長退任会見 [社会時評]

「裸の王様」もここまで徹底すれば立派~秋葉市長退任会見

 まったく、この人の頭の中はどうなっているのか。4月5日の秋葉忠利市長の退任会見。予定された時間はほとんど自らの実績強調に費やし、あげくのはてにオリンピック招致への反対論が根強いのは「マスコミのせい」とのたまう。会見のためにパワーポイント600枚を作ったらしいが、そんなことをする暇があれば、ほかにやるべきことがあるだろうに。


 逐条的に批判すれば膨大な行数になってしまうので、特徴的なことだけを言っておく。「オリンピック」問題でのマスコミ批判である。秋葉氏は「最初のうちは賛成意見が圧倒的に多かった」が、マスコミの「反対をあおる強力な動きがあって反対の意見が増えた」とする。本当だろうか。「賛成意見が圧倒的に多かった」根拠はなんだろうか。ひょっとすると、ある女性経営者が先頭に立って行った署名活動のことを指しているのだろうか。学生アルバイトを雇って展開したあの活動のどこに理念なるものがあったのだろうか。市民の大半は初めから「オリンピック構想」を冷笑していたことを、秋葉氏は知らないのだろうか。

 秋葉氏はまた「あえて反対論を強力に推進している幾つかのマスコミがあるっていうのは大変残念」とも述べている。そして、マスコミがあおったから世論調査でも反対意見が多数を占め、「あたかも客観的な事実のように」(マスコミが)言っているが、それは「順序が逆」だという。

 これは、マスコミの報道ぶりを客観的に計測する座標軸がずれているとしか言いようがない。賛成論でなければならないと思えば、そうでない報道はすべて反対論に見えるのだろう。一般市民の感覚で冷静に見れば、一連のオリンピック報道で「反対」を鮮明に打ち出した報道機関はなかったと言いきってもいい。もちろん、キャンペーンなども行われていない。各報道機関は世論調査の結果を見ながら忠実に軸足を決めていただけだ。それは、我々から見れば歯がゆいぐらいのものだ。


 そもそも、市長が唱えるオリンピック招致に反対しようが賛成しようが報道機関の勝手である。いま注目の原発にだって「反対」キャンペーンを張るマスコミがあってもいいし、戦争に「反対」する報道機関があってなんら不思議はない。だから、仮に秋葉氏が言うように「オリンピック反対」キャンペーンを張る報道機関があったとしても「謙虚に反省してもらうべき」だとか「世界にとっても良いことではない」とか「努力していただきたい」とか「上から目線」で言われる筋合いはないのだ。

 ここでは「仮に」という話をしたが、ではマスコミが実際、鮮明に「オリンピック反対」を唱えることはあるのだろうか。残念ながらその可能性は皆無だと思っている。なぜなら、マスコミにとってオリンピックは巨大な利権が絡むイベントだからだ。映像を流したり、ニュース記事を流したりする現場から締め出されることを、何よりマスコミは恐れる。テレビなら視聴率、新聞なら販売部数を稼ぐ絶好の機会である。報道の周辺部分にも、ありとあらゆる「ビジネスチャンス」が待っている。だから、ここではジャーナリズムより経営判断が先に立つことは免れない。どんな報道機関も、まずは企業であるからだ。そう考えれば、オリンピックから締め出されるリスクを負ってまで「反対」する報道「企業」などありえない。言い方を変えればIOCの商業主義はそこまで進んでおり、かつ腐敗していると見るべきだろう。

 ここまで言えば、秋葉氏の発言がいかに頓珍漢な事か、分かるだろう。


 オリンピックに関してもう一つ。秋葉氏は自らの業績の一つとして人事異動システムの改革を挙げている。そして5日の会見でも「客観的な仕事の評価ということも当然行いました」と述べている。4月1日付で、広島市のオリンピック担当職員のうち管理職2人が昇格した。部長級が局長級に、課長級が部長級に、である。これはいかなる「客観的評価」なのだろうか。オリンピック招致は当初、昨年のうちに「手を挙げる」予定だった。いまだにこの目標は達成されていない。「相手があることだから」というなら、では市民の理解を得るということはなされたのだろうか。各報道機関の世論調査を見れば、この目標も達成されていないことは明らかである。ここで「職員は自分の意のままに動いてくれたが」「世論調査結果は報道機関が反対をあおったから」であり、その結果として「招致に手を挙げることはできなかった」などというなら、秋葉氏が会見冒頭で言った「市民の市民による市民のための広島市政」という言葉自体が空虚に響く。「裸の王様」もここまでくれば立派、というほかない。


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