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やっぱりわからんヒロシマ五輪 [社会時評]

やっぱりわからんヒロシマ五輪 


 広島市の2020年五輪の基本計画が明らかになった。懸念される財政計画については、総事業費4491億円のうち広島市の負担額は52億円だという。それで収まるなら結構なことだが、収まらないでしょうね。
 市の財政負担を50億円台に抑えたからくりの鍵は、世界中からの寄付と助成金を992億円とした点にある。つまり、他人の善意で1000億円近いカネを当てにし、自らの懐からはその10分の1も出しません、という案である。他国から見れば、随分都合のいい理屈ではないですか。「そうまでして開かなくてもいいんじゃない?」と私なら言いたくなる。
 これを広島市民の目線で見てみる。この992億円、集まらなかったらどうするのか。もちろん広島市がかぶることになる。多少はIOCやJOCが持ってくれるかもしれないが(ここも他人頼み)。つまりこれは、ギャンブルなのだ。この計画を言いだした秋葉市長は、1地方自治体の首長である。彼がまずしなくてはならないことは、住民の税金を効率的かつ有効に使って住民サービスをすることである。住民の生活の安全と安定を図ることである。五輪開催による住民リスクの拡大は、そうした地方自治の本旨から外れることになりはしないか。
 もうひとつ、住民の目線で見てみよう。メーンスタジアムとなるビッグアーチは広島市の市街地から山一つ隔てた住宅街にある。交通はバス便とアストラムラインなる新交通システム(たぶん「ゆりかもめ」と同じ仕組み)。とても心許ない。ビッグアーチでは現在、J1のゲームが行われているが、交通の便に関しては悪評ひんぴんだ。五輪の計画では経費を抑え込むため交通インフラの整備はしないとしている。で、スタジアムへの往復はどうするつもりなのだろう。スタジアム周辺に宿泊施設を集めて徒歩で通え、ということなら分からないでもないが、宿泊施設4万室は、広島湾に浮かべた豪華客船(!?)などで賄うという。おそらく、スタジアム周辺は連日交通マヒに陥るにちがいない。
 ついでにいうと、現在のアストラムラインは広島市北部とだけつながっていて、非常に使い勝手が悪い。これを西方面へ伸ばしてJRと連結すれば環状の交通網ができ、利用客も飛躍的に伸び、地域の活性化になるにちがいないのだ。せっかく五輪を開くならこのぐらいのインフラ整備はしてほしいものだ。あるいは、五輪を開く暇があったら、まずはアストラム環状化を急いでほしいものだ。
 そうそう、忘れてはいけない。五輪開催には「カネ」だけでない大きなハードルがある。一つは商業主義、もうひとつは国威発揚、つまりナショナリズムの祭典と化した五輪のありようをどう変えるかという問題だ。
 商業主義に毒された五輪への批判は、さんざんこのブログでも書き連ねたのでもう書かない。今のオリンピックはテレビへの放映権料、スポンサーシップ、入場料に支えられて成り立っている。その中からIOCは運営費を出している訳だ。私個人は、こうした商業主義に立脚した五輪を、もはや否定する気はない。最先端の技術を使い、巨額の資金をつぎ込んで作り上げられたサイボーグたちがこのうえない環境の中で極限を競う姿は、それはそれで見ものだと思う。もちろんそれは、中古ではない素晴らしいスタジアムで見たい。しかし、そこに「核兵器廃絶」なる理念が加わったら話は別になる。そこでもうひとつ、ナショナリズムの問題。オリンピック憲章を読んでみれば分かるが、五輪とは本来「人生哲学」であり「すべての個人や団体による」運動である(ぜひこの五輪憲章は読んでほしい。今の五輪の姿が、この憲章とどれだけかけ離れているかが分かる)。つまり本来は「国家」が入り込む余地はないのだ。しかし現状は国別メダル争いをメーンにした運動会だ。「平和のため」「核兵器廃絶を祝して」行われる五輪なら、少なくとも「国別対抗戦」はやめなければならない。
 こうしてみると、広島で「祝・核兵器廃絶」五輪を開くためには現状の五輪理念の革命的な変革が必要なことが分かる。それは果たしてできるだろうか。予想屋のようなことは言いたくないが、この革命的な変革のためには、いま五輪にまつわりついているIOC、JOC、各国関係者、業界関係者の多くの利権が惜しげもなくどぶに捨てられることが必要であることだけは言っておかなければならない。
 でも、こんな「理念」だけのやせ細った五輪に出場しなければならない選手たちはかわいそうだね。



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