権力者の作法とは～政治とカネをめぐる小沢疑惑について [社会時評]
権力者の作法とは～政治とカネをめぐる小沢疑惑について |
民主党の小沢幹事長は16日の党大会で「（検察と）断固闘っていく決意だ」と述べた。要するに、党内に向けて「トラストミー」と言ったわけだ（国民向けの発言がない点が気になるが）。これを受けて鳩山由紀夫首相も「闘ってください」と伝えたらしい。首相はその後発言を修正、トーンダウンさせたが、波紋を投げかけた。なんともその動きには閉塞感ややりきれなさが漂う。
政党とはなんだろう。あらためて考えてみると結構ややこしい。もともと自由に結成されたものであり（憲法でも保障されている）、その意味では私的団体といえる。しかし近年は政治資金の助成を国から受ける。そのうえで最大多数の党は議院内閣制にのっとって政府を形成する。特に民主党政権は「政府と党の一体」をうたう。こう考えると、政党は従来のように「『公』ではない」と言いがたい部分がある。その政党の要を務める小沢が「検察と全面対決」と言う。これはどんな意味を持つか。
小沢の「闘争宣言」に首相がお墨付きを与えたのはいかにもまずい。首相は検察への指揮権を発動できる立場にある。広義に取ればこの発言だって「指揮権」に入ってしまう。不用意さが目立つ。
一方、こうした捜査での常套手段でもあるが、検察は事前に捜査情報をマスコミにリークして、いかにも疑惑がありそうな雰囲気を作ってしまう。西松建設のときも、要はカネの流れ方（流し方）の問題だったが、情報のリークで巨大な疑惑があるかのような空気が出来上がってしまった。こうした検察のやり方に問題がないわけではない。ロッキード事件では、いきなり頂点の田中角栄元首相から落とした。政治家の逮捕では、かつてはこうした手法が取られた。しかし最近は違っているようだ。小沢の元秘書で衆議院議員の石川知裕容疑者の場合、「出頭要請」「出頭」「逮捕」と同時中継のように情報が流された。仮にも政治家の逮捕である。逐一のリークは何を意味するのだろう。小沢の政治資金に建設会社との贈収賄の疑惑があるとすれば、まっすぐそこにメスが入れられない理由はなんだろう。現時点で決め手がないのか。そうだとすれば検察の手法もほめられたものではない。
こうした検察の手法に、民主党内では「捜査情報の漏洩問題対策チーム」ができるらしい。原口一博総務相も、報道機関は情報源を明確にするよう発言している。これも、首をかしげる動きだ。「捜査情報漏洩」が問題かどうかは政権与党ではなく、捜査当局と報道機関の間のテーマであろう。そしてまた、放送電波の許認可権を持つ総務相が報道のあり方に注文をつけるとは…。
政府・与党と検察当局の間で交通整理をすべき立場の人間は法相であろう。と考えて、はて今の法相は…？ 調べたら千葉景子だった。なんと影の薄いこと。で、千葉法相は19日の閣議後会見で「一般的には指揮権発動はある」と答えたらしい。一瞬ドキッとさせられるが、法相には指揮権発動の権限がある、といったに過ぎないようだ。もっと踏み込んだ発言をすべきであろう。でないと混乱が広がるばかりだ。
一連の動きを見ていると、要は民主党が与党慣れしていないことに起因しているのではないか。最終的に検察を動かすのは政府・与党なのだ。その意識を持って検察の捜査との距離感を保つべきではないか。つまり権力者としての作法を身につけることではないか。
こうした民主党内の動きを「敵失」ととらえて自民党は色めきたっている。しかし、自民党だってほめられたものではない。第一、自民党の歴史的役割は終わってしまっている。だからこそ今のポジションにいる。その点は舛添要一・前厚生労働相の発言が正しい。自民党が今すべきことは政党の役割の再定義であり、その延長線上に政界再編が見えるのなら、そこへと突き進むことだ。
「政治リーダーの評価は『歴史に使われた指導者』だったかどうかで決まる」【注①】という言葉がある。小沢というアンシャンレジームの政治家と組まざるを得ないのは民主党の悲劇性ではあるが、こうした政治とカネの問題で足元をすくわれ、「政権交代」という歴史の貴重な一ステップを台無しにすべきではないだろう。民主党にはまだ「歴史に使われる」役割がある【注②】。
【注①】「危機の政権 コイズミクラシーとヘイゾノミクス」（塩田潮著）から。
【注②】19日付朝日新聞への寄稿で山口二郎北海道大教授は「政権交代が烏有に帰すならば、国民は民主政治に絶望するしかない。日本の民主主義が瀬戸際にあることを、小沢および民主党の指導部に銘記してもらいたい」と書いている。
2010-01-20 10:45
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