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変革の200日を問う~濫読日記 [濫読日記]

 

変革の200日を問う~濫読日記

 
「オバマは何を変えるか」(砂田一郎著)
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★★☆☆☆


岩波新書。740円。初版第1刷は20091020日。

著者は東海大教授、学習院大教授を歴任。専攻はアメリカ政治。
新聞社勤務を経てカリフォルニア大政治大学院修了。

  「チェンジ」を主張して大統領に就任したオバマの200日を検証した。経済、外交、そして内政的課題として医療保険改革と環境エネルギー立法を取り上げる。結びとして「民主主義の再生を目指して」を設けた。この最後の1章が、実は一番参考になる。米国政治の現状とオバマの位置関係がよく分かるからだ。
 オバマが言う「チェンジ」とは何か。つまり彼は何を変えようとしているのか。著者はここで二つの視点を取り上げる。経済、社会の仕組みを変えること。もう一つは米国の政党政治のあり方の変革。この「ワシントン政治」が、オバマにとっての厚い壁だと著者は言う。
 その筆頭は利益集団政治との戦い。真の多数者の声を反映させる政治を説き、イデオロギー的少数者が自分たちの真実を押し付け合い、国家の重要課題が忘れられようとしている今日の政党対立は危機的だというのがオバマの認識だ。医療保険改革の推移を見ると、この言葉の持つ意味がよく分かる。しかし、はっきり言って大統領はかなりの苦戦だ。
 オバマが議会に対して有効な影響力を発揮できない背景として著者は米国の権力分立体制を挙げる。日本と違って大統領は正式の党首ではない。だから民主党をまとめる位置にオバマはいないというわけだ。そしてどちらかと言えば共和党が一枚岩なのに対し民主党は支持基盤、人種、文化的に多様で党としての統合が難しい。「オバマの超党派的政治の試みにとって最大の障害は、議会共和党である」と著者は見る。このような政党対立の図式に文化的、人種的要因が入り込むと、ことはもっと面倒になる。幸いオバマ自身が人種的な対立を生む言動を慎重に避けてきたため、この面での障害は今のところない。ただこれは、人種的な対立が米国社会から消えつつあるということでは、もちろんない。
 「オバマの新たな思考」とする章ではジョージタウン大での演説に注目する。イエスの言葉を援用し「借り入れて支出する時代から貯蓄し投資する時代へ」と語る。経済政策の新しいメッセージが込められている。「世界に向けた変化のメッセージ」では就任演説を取り上げ、外交政策の基本を明らかにする。①国家安全保障優先の外交を転換②単独行動から諸外国との協調へ③目指すのは世界の民主化ではなく世界平和の実現―。オバマの思考がよくわかる。
 歴史的な転換を遂げた大統領としてローズベルトを挙げる著者は最後に「オバマの200日」をこう総括している。
 「オバマ大統領はすでにさまざまな面でアメリカを変えている。だが、それはローズベルトの業績にはるかに及ばない。オバマは経済的苦境にある多くの人々に期待を持たせたとはいえ、自己利益中心的な行動を慎み、社会的な責任を自覚せよというオバマの国民へのメッセージは、まだ広く受け入れられているとは言えないのである」
 オバマは「リベラル」だがプラグマチックで超党派政治を志向する―。これが著者の見方だ。このことが忠実に実践されればオバマは間違いなく歴史的な業績を残すだろう。しかし、そのためにはまだ壁は厚い。「オバマの今」を整理しておくには格好の1冊といえる。 

    


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