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安保のグローバル化に歯止めを~濫読日記 [濫読日記]

安保のグローバル化に歯止めを~濫読日記

「逆走する安倍政治 馬上の安倍、安保を走らす」(纐纈厚著)

逆走する安倍政治.jpg 安倍政権による事実上の憲法改正が進み、11月には内乱・戦闘状態の南スーダンで「駆けつけ警護解禁=自衛隊と現地兵の戦闘」が現実のものとなりつつある。ここまで来れば、憲法改正論の背景にある日米安保体制の是非自体が問われなければならない。すなわち、日米安保・核の傘への賛否こそが、日本の政治(=針路)の大枠を決めるファクターだと思うのだが、日本の政治はそこに焦点を当てきれていない。
 日米安保の現状と、よって立つところは何か、これを詳細に探ったのがこの一冊である。
 戦後、日本は日米安保という大きな選択をした。もちろん、そこには米ソ冷戦という逃れがたい国際的枠組みがあった。しかし、冷戦が終わり、日本社会は大きな地殻変動を経験する。筆者はここで、戦後日本を規定する「四重システムの相互関係」論(加藤哲郎)を引用する。①東西冷戦②日米安保③自民党④会社主義―である。ここで、冷戦の終焉は他の三つにドラスティックな変革を迫る。会社主義は少し唐突な感じもあるが、冷戦後、企業は多国籍化が進み、日本の輸出主導型の貿易構造を維持するために親米・親日政権を支えるアジア各国の軍事独裁型国家へのテコ入れが必要だったのである。筆者は坂本義和の「周辺軍国主義」や「代替軍国主義」の概念を援用してこれを説明する。こうして日米安保のグローバル化が進む。
 安保のグローバル化が「国際貢献」論や「普通の国家」論によって語られたのは記憶に新しい。背景には米軍再編がある。ポスト冷戦で米国は一国覇権主義を標榜する。そのためには日英との軍事同盟が必要だった。米側の意図に呼応する形で、日本企業の多国籍化=海外生産拠点へのシフト→海外拠点の安定化がテーマとなり、安保のグローバル化に拍車がかかったのである。こうして既存の経済権益を守るため、日本自身による軍事化が求められるようになったと筆者はいう。
 もう一つ、歴史的な流れを追えば、戦前の日本は天皇制帝国主義ともいうべき矛盾を抱えた国家だったが戦後、日米安保を選択したことにより、その国家構造を清算する機会を失った。直後に続いた高度経済成長でそれらは表面上隠されてきたが、冷戦終結と経済低成長時代に入り、その「地肌」が露呈するに至った。「その時代状況を巧く掬い取って政権を掌握したのが安倍晋三という政治家」だと筆者はみる。米側の意向だけでなく、日本側にも軍事国家への目論見があった。安保をめぐる今の日本の状況は「対米従属論」だけでは語れないのである。ここで、安倍政治には対米自立(=戦前への回帰)が見え隠れし、米側もそこに懸念と警戒心を隠さない。要は、「軍事には軍事」という即物的発想ではなく、日本自身がどんな平和の青写真を描けるかだ、と筆者は問いかける。そして、現在の政治状況を「専制的民主主義」もしくは「偏在する民主主義」だとし、自由・自治・自立の民主主義を取り戻すべきだと訴える。
(日本評論社、1700円=税別)

逆走する安倍政治

逆走する安倍政治

  • 作者: 纐纈 厚
  • 出版社/メーカー: 日本評論社
  • 発売日: 2016/04/22
  • メディア: 単行本



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