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原子力ムラとメディアの醜悪な構図~濫読日記 [濫読日記]

原子力ムラとメディアの醜悪な構図~濫読日記


「原発プロパガンダ」(本間龍著)

原発プロパガンダ.jpg 2011年3月11日直後のことを、鮮明に覚えている。虚を突かれた思いだった。原発は事故を起こさないと、漠然と無邪気に信じてしまっていた。そこで事故後、まず取ったのは書店で原発関連の書籍を買い求めることだった。1970年代から80年代にかけて、多少は原発について考えていた。しかし、そうした思考は途切れていた。それは私だけのことではなかったようだ。さんざん探したが、「原子力白書」の類いを除けば、原発に関する書籍はほとんどなかった。
 知らぬ間に「原発は事故を起こさない」という根拠のない「常識」が意識の底に埋め込まれていた。その後、洪水のように「原発」をめぐる著作が出て、安全神話が粉々に打ち砕かれたことはいうまでもない。その中で、安全神話はメディアの「意見広告」と、安全性に無批判な報道によって形成されたことが白日の下にさらされた。しかし、こうした事態を招いたメディアの側の「反省」は「原発とメディア」(朝日新聞社、2巻)を除けば見られなかった。「原発と―」で、著者の上丸洋一は「原子力は『満州国』に似ている」と書いている。「満蒙は日本の生命線」という根拠のない前提が一人歩きし、「満州国」というフィクションがメディアによって広められた。同じように原発なくして日本のエネルギーは成り立たないという根拠のない前提のもとに、原発の平和利用というフィクションが、メディアによって広められたのである。
 ただ、手法は戦前と大きく違っていた。タレントをはじめとする有名人を使い、一般記事のような体裁の意見広告が、高額のカネをメディアに支払う形で掲載された。その中で、原発の安全性が臆面もなく語られた。
 「原発プロパガンダ」は、その意見広告の足跡をたどった。驚かされるのは、40年間で普及開発関係費(広告費)2兆4000億円という事実である。年平均でならすと、トヨタやソニーの年500億円を上回る。原子力ムラはこれだけの巨額のカネをつぎ込み、原子力は安全と言いふらし、国民を洗脳した。電力会社はエリアごとの一社独占体制だから、本来は「広告」は必要ない。そうした中でこれだけのムダ金(原資は電力料金である)を費やし、国民を洗脳しフィクションの形成に努めてきた。こうした性格上、いくつかあった原発の危機(たとえばスリーマイル島事故やチェルノブイリ事故)に際しては、直後の「普及開発関係費」は飛躍的にアップした。ここが一般の広告とは違う。自粛ではなく洗脳が優先された。例えば、チェルノブイリ事故はソ連の体制に由来するもので、日本では起こりえない…。
 掲載すれば巨額の収入が保証される「意見広告」は、メディアにとっても捨てがたいものになった。いつしか、不可欠の財源となった。裏を返せば、平時には「賄賂」であり、非常時には、広告の引き上げをちらつかせながら行われる「恫喝」の道具と化す。これは、全国紙よりも地方紙にとって有効な手段とされた。地域へのシェア率が高いこと、財政規模が小さく「賄賂」効果が高いこと…。原発銀座が出現した福島や福井の地方紙に照準が合わされた。その結果、一般記事までもが原発批判を控えるようになる。もちろん、テレビ局も同様だった。
 広島テレビは1992年、プルトニウム利用を追った「プルトニウム元年・ヒロシマから~日本が核大国になる…!?」を制作。「『地方の時代』映像祭大賞」などを受賞した。ところが中国電力と電事連が執拗に抗議、他番組で中電がスポンサーを降りるという事態になると、テレビ局は番組を制作した4人を営業に配置換えする措置を取った。もちろん、原発ムラによる醜悪な工作ぶりを暴いた一部地方紙の頑張りがないではない。しかし、極めて少数だった。原発の40年の全体を通してみれば、カネにつられた人々、カネに屈してプライドを捨てたメディアという吐き気を催すような構図が見える。
 では、福島以後、こうした宣伝工作はなくなったのだろうか。さすがに「安全」「クリーン」は姿を消したものの、「ベースロード電源」「経済的に割安」「ベストミックスを」という三本柱によるプロパガンダは復活しつつある。懲りない原子力ムラの面々である。
 岩波新書、820円。初版第1刷は2016年4月20日。著者は1962年生まれ。博報堂で18年間、営業を担当。

原発プロパガンダ (岩波新書)

原発プロパガンダ (岩波新書)

  • 作者: 本間 龍
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2016/04/21
  • メディア: 新書


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