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国民不在の官邸独走解散~社会時評 [社会時評]

国民不在の官邸独走解散~社会時評

 

A)安倍晋三首相が9月25日の会見で衆院解散を宣言した。予想通り、説得力ある「大義」は示されなかった。

B)しいて言えば2019年に10%に引き上げ予定の消費税の増税分の使い道を変更するということと、対北朝鮮政策の是非を問うというものだった。

C)税金の使い道については毎年国会で議論していることだし、国会での議論を経て与野党膠着状態になれば解散・総選挙で問うというのもあるのかもしれない。しかし、消費税増税分の使途変更については民進党も言及しており、国会での議論がかみ合わないことだとは思えない。そうした議論を経て解散というのが筋で、やはりとってつけた感じが否めない。

B)対北朝鮮政策についても、今は対話ではだめ、圧力だといっているが、その先が見えない。米国は軍事オプションも含めすべてテーブルにあるといっているし、北朝鮮は国連でのトランプ演説をとらえて事実上の宣戦布告だといっている。圧力をかけ続けた後の出口をどう考えるのか。米国が軍事オプションをとるといった場合、反対するのかしないのか。それとも対話にこだわるのか。そこを示さないと、国民に問うことにはならない。

A)外交上の案件だから言えないのではないか。

B)もしそうなら、外交上の案件を選挙で問うということの自己矛盾が生じる。

A)いずれにしても、この二つを選挙の争点に、というのは無理がある。

野党の要求はどこへ

C)それよりも、臨時国会冒頭で解散という手法に問題がある。今度の国会は通常でも特別でもなく臨時国会。開く理由は「総議員の4分の1以上の要求」という憲法53条に基づいている。野党要求を長期間たなざらしにしたうえで議論なしの冒頭解散ということなら憲法軽視、国会軽視もはなはだしい。野党ももっと怒るべきだ。

A)解散権が自由に行使できると思っている政権側の専横ぶりが目立つ。926日付朝日に「解散権の肥大化『見通せず』」という佐々木毅・元東京大総長の記事が載っている。佐々木さんは小選挙区導入にあたって理論的な支柱だった。その人が、小選挙区導入によってこれほど解散権が肥大化するとは思わなかったといっている。最近よく耳にする「首相の専権事項」という言葉が使われだしたのも21世紀に入る前後からだという。それまでは首相が「解散」といっても派閥の論理で抑え込まれることがあった。

B)よく覚えているのは海部俊樹内閣。政治改革法案を出そうとしたが政権を支えていた経世会が反対、つぶされた。小沢一郎幹事長、金丸信副総裁のころだ。その次の「政治改革はやります。嘘はつきません」といった宮澤喜一首相に対する不信任が成立し、55年体制が終結した。

C)派閥が権力独走の抑止力になったということだ。今はそれがないから官邸が突っ走ってしまう。

B)「国難突破解散」などと、よく言う。いわば国民不在の官邸独走解散だ。

 

勝負所を押さえた小池会見

A)首相の解散権の直前、小池百合子東京都知事が緊急会見し「希望の党」の立ち上げを宣言した。

B)絶妙のタイミングだった。翌日の朝刊一面は首相の解散表明と小池知事の新党の記事が競い合う形になった。そこまで計算して小池会見はセットされたのだろう。

C)新党は若狭勝・細野豪志両衆院議員を中心に準備が進められたが、こうした作業をいったん「リセット」するという過激な言葉も出た。

B)裏には「そんなんじゃとても勝てないわ。あんたたちもういいわよ。後はあたしがやるから」という小池さんの思いが透けて見える。もっとも本人に聞いたわけではないが。

C)これも聞いたわけではないが、若狭さんたちは安倍首相の会見を聞いたうえで戦略を練ろうとしたのではないか。そこを「機先を制すべし」という小池さんが引き取った。

A)それだけに、小池さんが会見で披露した政策は粗雑で付け焼刃の印象が強い。

B)ただ、勘所は押さえている。特に脱原発。会見のすぐあと、さっそく小泉純一郎前首相と会談した。大きなアピールになる。少なくとも世論の半分以上は脱原発を志向しているのだから。

 

コミュニケーション能力の違い

C)一気に安倍VS小池の構図が出来上がった。25日夜の民放もそろって安倍、小池両氏のインタビューを流した。特徴的だったのはコミュニケーション能力の違いだ。安倍首相にはコミュニケーション能力がない。民放の報道番組に出ても、聞く耳を持たず一方的に持論をしゃべるだけ。キャスターたちが困惑の表情で割って入る場面がいくつもあった。「こんな人たちに負けるわけにはいかない」という秋葉原での発言や国会で福島瑞穂議員の質問に「あなた責任はとれるんですか」といった恫喝で答えた場面が思い起こされた。森友・加計学園問題でのわずか半日の衆参閉会中審査で「丁寧に答弁させていただいた」とも述べた。こうした首相の不誠実な姿勢に国民はうんざりしている。小池さんは首相と国民のこうした乖離を巧くついているといえる。二人のインタビューが続くと、その違いがよくわかる。

B)小池新党は、いちおう自民党と差別化を図ろうとしているが、基本路線はそう違わない。そのうえでもし小池旋風が起きるとすれば、国民との対話能力の差だろう。

今後の展開は

A)今後はどういうストーリーが考えられるか。

B)単純に過半数をとって政権奪取というのは考えにくい。あるとすればキャスチングボートを握って連立政権のトップに立つかたちだ。

A)日本新党の時のスタイル。あの時、小池さんは国会議員のデビュー戦だった。そういう意味では、ある民放のインタビューで、首班指名では「公明代表の山口那津男さんがいい」といったのは意味深だ。

B)ただ、小池さんが首班指名の対象になるには国会議員になっていなければならない。

A)公示まであと2週間ある。スタートラインはひかれたから、これから各党の票読みが本格化する。その結果次第では、小池さんの翻心もゼロではないだろう。


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品格ない政治を憂う~社会時評 [社会時評]

品格ない政治を憂う~社会時評

 

「解散の大義」論争

A)にわかに解散・総選挙の話が出てきた。これに対して野党からは解散の大義がない、解散権の乱用だとの批判がある。与党内の一部からも批判が出ている。

B)安倍晋三首相の場合、いつもそうだが何のための解散なのか分からない。だからそういう批判が出る。

C)強いていえば、解散の理由は党利党略、つまり今が一番の好機だからということ。官邸寄りで知られるテレビコメンテーターのT氏は「党利党略で解散するのは当たり前」といっている。

A)そうすると、いつものことだが政治の「あるべき」姿と「現にある」姿の話になる。現実がそうなんだから仕方ないじゃないの?となる。かわいそうなのは国民だ。国民置いてきぼりの選挙が肯定され、まかり通る。

B)選挙は国民が政治にモノ申せる大きな機会なのだから、そういう場が提供されることは否定できない。

C)いや、それは少し違う。誰もが分かっているが、今は野党の体制が整っていない。つまり、国民には選択肢が与えられていない。選択肢がない状態で選択を迫られるのは国民にとって不幸なことだ。衆院の任期は4年と決まっているので、任期を全うした後で選挙をやっても不都合はない。

A)それでは政権が死に体になる…。

C)その発想こそおかしい。相手の窮地に付け込んで政権維持のために選挙をするのか。それではケンカ上等の理屈になる。もっと高いところを見た政局運営はできないのか。
A)こんな時、いつも出てくるのが「衆院は常在戦場」という言葉だ。

C)それで衆院議員は何をしているか。浮足立って地元の選挙区回りをしているだけ。小選挙区だと東京の区議会議員より狭いエリアを回っている。こんなことでまともに国政が担えるのだろうか。もっとじっくり国政と取り組める体制を目指すべきだ。

B)先日、あるテレビで相撲好きのコメンテーターが今回の解散論議を評して「横綱が立ち合いで変化するようなもの。正々堂々と受け止めて横綱相撲はできないものか」といっていた。

C)別段ルールで禁止されているわけではないが、横綱の品格の問題としてどうなの、ということだ。

A)安倍首相は保守政治家として疑問点も多いし、横綱に例えるのはどうも…

B)一応、国会で選ばれた行政のトップということで例えただけ。政治家、人間性への評価ではない。

 

7条解散」とは何か

A)解散権の根拠としてよく持ち出されるのが憲法7条と69条。7条は内閣の助言と承認により天皇が国事行為の一つとして衆院を解散できるとある。69条は衆院で不信任案が可決された場合、解散によって国民に信を問えるとある。7条によって内閣はいつでも解散権が行使できると解釈されている。

B)憲法7条によって内閣はフリーハンドで衆院を解散できると解するなら、もともと69条で断る必要はない。69条解散が本来の解散で、7条は天皇の国事行為という側面から解散権の存在を確認しただけではないか。

C)その通りだろう。しかし、いつしか7条と69条は別個の解散規定と解釈され、戦後ずっとそれが認められてきた。首相という政治権力のトップにとって解散権は絶大な権利だから、拡大解釈はされても解釈を狭めることはもうないだろう。頼りは司法判断だが、統治行為論で逃げるだろう。

A)小選挙区制の導入によって近年、官邸や自民党総裁の権限の肥大化が言われている。こうした状況のもとではむしろ首相権限の縮小が唱えられるべきで、その意味でも解散権は制約があったほうがいい。

B)英国議会には2011年に導入した任期固定化法がある。5年ごとの下院の選挙期日を定めたもので、この日程を変えるには、内閣不信任が成立した場合と下院の3分の2の賛成があった場合だけ。ここまで縛ると、議院内閣制の下での議会と行政の緊張関係がなくなるとの説もあるが、そもそも今の衆院は内閣に牛耳られており、行政が立法を支配する独裁体制に近くなっている。そういう意味では英国並みの解散権の縛りがあってもいい

C)しかし、英国のような解散権を縛る法律ができるかといえば、日本では現実的に難しい。期待しても無駄かもしれないが、結局は首相の政治哲学、思想の品格に頼るしかない。

 

北朝鮮と選挙

A)国連でトランプ大統領や安倍首相が強硬な北朝鮮批判を展開し、北朝鮮をめぐる関係は極度に緊張している。なにもこんな時に選挙をやらなくても、という声もある。

B)それに対して官邸は、これからもっと関係は緊張するから今選挙をするんだといっているようだ。

C)本当かな。今より緊張するといえば戦争しかない。

B)先ほどもあったように、せっかくある解散権を行使しないと政権の求心力が保てないという判断もあるようだが、それは国民無視の議論だ。戦争になってしまえば日本国内にもミサイルが飛んでくるかもしれない。そんな崖っぷちの局面で何が選挙だろうか。北朝鮮情勢に鑑みて、解散権を自ら封じるぐらいの政治判断があってもいい。それなら国民は納得する。求心力は落ちるどころか上がる。おっと、安倍政権の延命に加担することもないか。

A)それにしても、トランプ大統領(現地時間919日)と安倍首相(同20日)の国連演説は危うい。出口を見出すというよりふさいでいくような内容だ。これだけ危機をあおって、国内では消費税の使い道をめぐって選挙ですといえば、他国はどう理解するのだろうか。

B)平和ボケ極まれり、だ。

A)野党が要求した臨時国会召集も、冒頭解散では全く意味を持たない。どうみてもこれは憲法違反だし、森友・加計問題で丁寧に説明するとか、8月に大急ぎで内閣を改造したのも何だったのか。すべて世論調査の支持率にらみの行動だったとしか受け取れない。一体いつまで国民はなめられるのか。

 


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動乱の時代が始まった~社会時評 [社会時評]

動乱の時代が始まった~社会時評

 

都民が常識的な判断

A)すでに報じられているように、東京都議選は自民が惨敗。小池百合子知事を先頭に立てた都民ファーストの会が第一党になった。

B)自民の惨敗は予想通り。これまで、安倍晋三をリーダーとする自民党がなぜこれほど強気でいられるのか理解できなかった。東京都民が常識的な判断をしたといえる。

C)しかし、それに代わって小池新党というのも…。

A)変わり映えしないということか。

C)安倍自民がここまで嫌われたのは、上から目線の政治、権力の私物化、疑惑隠ぺい体質、これらが原因だった。小池知事が喝采を得たのは、こうした自民の現状にアンチテーゼを突きつけたから。都民とともに歩み、政策決定過程を透明化する、こうしたことを訴えたからだ。しかし、政策的に自民に対抗するものを持っていたわけではない。

B)自民の敵失が小池新党に風を吹かせた、といういい方もできる。都議選に入ってすさまじいほど自民のマイナス面が出た。2回生議員の常軌を逸したパワハラ暴言、稲田朋美防衛相の「防衛省、自衛隊、防衛相として特定候補をお願い」発言、下村博文幹事長代行の加計学園献金疑惑…。その前に森友、加計疑惑があり、菅義偉官房長官の強権的な対応も随分、国民の反感を買った。

 

批判を受け止める能力がない首相

A)でも、最大の問題は安倍首相自身だ。今あげたすべての問題が安倍首相自身から出てきているうえ、国会ではろくに質問に答えず野党批判ばかり繰り返した。そういうところを、国民は見ている。

B)都議選最終日、秋葉原での街頭演説もひどかった。「安倍やめろ」コールに対して「こんな人たちに負けるわけにいかない」と絶叫していた。後ろでは石原伸晃が「そうだ」とたきつけていた。

C)かつて、国会で追及された首相が「そんな下品な言葉を使うから、あなた方の支持率は低いままだ」と応じていた。そういう体質が安倍という政治家にはある。質問にまともに答えず、問題をすり替えて応じる。聞く耳を持たない。背景には、同じ国民という意識ではなく、批判するものは敵、という意識がある。これを直さない限り、いくら反省するといっても国民は信用しない。

B)安倍首相が都議選結果を受けていっているのは、「国民から叱咤された」と、つまり叱られたと。しかし、国民感情はそうではない。「やめろ」といっている。そのことを正しく受け止める姿勢、能力が今の安倍首相にはない。

C)「反省する」というなら、まず稲田防衛相を罷免し、臨時国会を召集する。そこまでしないと国民は納得しない。
B)誰が見ても適格性を欠く人間を防衛相に据えて、批判があるにもかかわらず代えようとしない、これもまた権力の私物化だ。

A)菅官房長官は安倍首相の「こんな人たち」発言への感想を聞かれ「何の問題もない」と会見で答えていた。もうつける薬がない。

 

「風」を待つ小池知事

B)こうした自民の惨状を見て、小池都知事は内心ほくそ笑んでいるのではないか。

C)このまま自民が低空飛行を続ければ、シナリオはわからないが小池リリーフの局面があると…。

A)小池さんは都知事選に出る時、自ら崖を飛び降りて風を吹かせる、といったが、今度は動かないだろう。自ら風を吹かすのではなく、風が吹くのを待っている。

B)小池さんが政治の世界に入ったのは細川護熙の日本新党ブームの時だった。あの時の記憶は強烈にあるはずだ。非自民連合で連立内閣を作るのか、それとも自民に担がれるのか。必ずしも最大勢力のトップにいなくても、政治の頂点につくことはできる。細川首相もそうだし、自社さ政権の村山富市首相もそうだった。

C)現在の衆院議員の任期が切れる2018年末までに動きがあるだろう。この動乱の中で、安倍首相が総裁を3期9年務めるとか、改憲のための国民投票を行うとかはとても考えられない。今の情勢なら改憲の国民投票をすれば否決される。そうなれば内閣は即総辞職だ。

A)安倍首相はどこかの時点で立ち往生するとみるのが妥当ではないか。そうなれば、先ほどの小池リリーフのシナリオが現実味を帯びる。

B)あるいは、麻生太郎あたりが安倍を引き継いだが低空飛行のままだった場合、2018年の総選挙で小池新党が一定の票を集めて「細川内閣」の再現になる。

A)いずれにしても、安倍政権のままだと日本中に閉塞感が充満する。

C)むしろ、安倍政権がこれほど長期に続いたことが驚きだ。しかし、小池さんも究極のポピュリスト。彼女が安倍の代わりになったからといって、日本に明るい未来が開けるとも思えない。せいぜい目先が変わるぐらいのことだ。原点の話に戻れば、なぜ日本では保守を含めたリベラル政党が育たないのか。そこに行きつく。

B)民進も、これからの動乱の中で埋没、消滅するかもしれない。かつての社会党のように。都議選での消長はそのことを予感させる。


暴言・暴言また暴言~社会時評 [社会時評]

暴言・暴言また暴言~社会時評


言語クーデター 

A)暴言が続く安倍晋三政権で、またまた暴言が飛び出した。

B)稲田朋美防衛相の自民党候補応援演説。6月27日夜に「防衛省、自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いしたい」と発言した。

C)防衛省や自衛隊として特定の候補をお願いする、などというのは少しでも社会常識のある人間なら分かりそうなこと。この程度の人間が日本の防衛の中枢にいるのかと思えばぞっとする。

A)稲田防衛相は弁護士で、それなのに法律的常識もないのか、と批判する向きもあるが、それ以前の問題だろう。

B)自衛隊を私兵扱いしている。そのまま受け取れば、これは言語によるクーデターだ。自民党候補を当選させるためには、我々は自衛隊さえ動かす、といっているようなものだからだ。

C)これでやめないとしたら、どんな発言をすれば引責辞任することになるのだろう。放置すれば何でもありになってしまう。野党は頑張ってもらいたい。石破茂氏が正論を言っているが、もっと与党内でも批判が広がる必要がある。


首相自ら暴言
A)24日には安倍首相が神戸市内で、加計学園疑惑は中途半端な妥協によって生じた、として「地域に関係なく2校でも3校でも認めていく」と発言した。これもひどい暴言だ。では、これまでの獣医学部建設をめぐる議論は何だったのか。国民をバカにした発言だ。

B)獣医学部建設をめぐる閣議決定、当時の担当相の名をかぶせたいわゆる「石破4条件」を読むと、既存の施設では対応できず、新たなニーズが認められた場合にのみ獣医学部新設を認めるということになっている。いまだに加計学園がこの4条件をクリアしているとは思えないのだが、それがどうして2校でも3校でも、という話になるのだろう。白地の布に一部黒いところがあるからといって全体を真っ黒にしてしまうようなことだ。加計隠し以外の何物でもない。

C)28日付朝日の社説は「ちゃぶ台返し」と呼んだが、その通りだ。私学といえども新たな獣医学部を作ればそこには国費が投入される。安倍首相は自らの疑惑隠しのために無駄な国費を使おうとしている。

B)獣医学部のうち、どの分野でどのくらいの需要があり、どの分野で供給過多になっているかは、農水省あたりで把握しているはず。そのデータを出せばいいのに。

C)農水省が知らん顔をしているのは、内閣府人事局長の顔色を窺っているからだろう。人事局長は疑惑の中心にいる萩生田光一・官房副長官だ。7月になれば霞が関は人事の季節になる。

責任は相手に擦り付け

A)なんともひどい世の中になった。暴言といえば山本幸三・地方創生担当相もひどい。26日には、加計学園疑惑について挙証責任は文科省にあると発言した。文科省が自律的に判断して決めたのならそうだろうが、疑惑は首相・内閣府が無理やり文科省を動かしたのではないか、というところから生じている。だとすれば、挙証責任は首相と内閣府にある。それなのに首相や内閣府、山本担当相は「一点の曇りもない」というばかりで、まともな答弁もせず国政調査権の行使も認めない。これで国民が納得するはずがない。

C)権力を行使する側の説明責任が問われているが、そのことが全く理解されていない。

B)山本担当相は6月16日の参院予算委で内閣府の職員を切り捨てる発言をしたが、後日それが事実誤認と判明した。これも暴言だ。4月には「学芸員はがん」とも言っている。これでやめないのが不思議だ。

A)でも、最大の暴言は安倍首相の改憲発言だろう。自分の任期をにらんで国会に議論の開始時期を指示するなど、まるで独裁者だ。


いつまで続く政治の荒野~社会時評 [社会時評]

いつまで続く政治の荒野~社会時評

 

◆2回生議員の不祥事相次ぐのはなぜ

 既に多くのメディアで報道されているが、自民の当選2回組の不祥事が相次ぐ。それも信じられないものばかりだ。「週刊新潮」6月29日号(6月22日発売)は豊田真由子議員(埼玉4区)による、秘書へのパワハラを報じた。秘書のミスを異常ともいえる言葉遣いで叱責。音声データも公開されたため、逃れられない物証となった。傷害、暴行、脅迫などの容疑で立件もうわさされている。東京の有名女子高から東大法学部、厚生省、ハーバード大学院と典型的な学歴エリートのようだが、人間エリートではなかったようだ。

 豊田議員が自民に離党届を出したことが報じられた6月23日付の中国新聞は、中川俊直議員(広島4区)がお詫び行脚のため地元入りしたと伝えた。愛人との重婚疑惑写真、ストーカー騒ぎなどスキャンダルの詳細は「週刊新潮」4月27日号(20日発売)に掲載、発売直前の18日に経産政務官を辞任、21日には自民党を離党。それからおよそ2カ月ぶりに姿を現した。支援者にお詫びして回るからには、なお国会議員を続ける意思があるということだろう。そのほかの不祥事は、書くのもばかばかしいのでネットで調べていただきたい。

 共通するのは「国会議員として」という以前に「人間として」「市民として」いかがなものか、と思わせることだ。国会とは国民を縛る法律をつくるところ。その任に当たる人が人間性に疑問を持たれてはならない。

 この疑問は政権トップにいる安倍晋三首相にも当てはまる。森友学園問題に続く加計学園問題でも、先頭に立って疑惑の解明を行おうとしない。そうした姿に業を煮やした文科省内部から疑惑を裏付ける文書が出れば文科省を攻撃する。一連の疑惑を追及した野党議員には根拠もなく「印象操作」という。今国会で最も「印象操作」を行ったのは誰か。戦争法を平和安全法と呼び、森友学園疑惑では本筋の国有地払い下げ問題ではなく籠池泰典前理事長の補助金詐欺容疑で国会閉幕直後に強制捜査を行わせ(捜査を決めたのは大阪地検特捜部だが、籠池氏自身がいうように「国策捜査」の色合いは否めない)、加計学園疑惑で重大証言を行った前川喜平・前文科事務次官については出会い系バー通いを官邸の広報紙である読売新聞に報じさせた。野党を非難する前にわが身を振り返ってもらいたい。

 

◆「人」を選べない小選挙区制

 なぜ、こんな政治の荒野が出現したか。最大の原因は小選挙区制にある。そこには二つの側面がある。小選挙区制が「定員1」であることから死に票が多く、必然的にバイアスがかかるためバブル現象が起きやすいこと。もう一つは、あまり指摘されていないが、小選挙区制は人ではなく党を選ぶ選挙であるということ。中選挙区なら、複数の立候補者のうち人間がすぐれていると思われる候補に票を入れることが可能だが「定数1」では人を選べない。

 なぜこんな制度を選択したか。中選挙区では「政治にカネがかかる」ことが問題視され、その原因が選挙区への過剰なサービス合戦にあるとされたからだ。そこで、サービスや利益誘導ではなく、政党の政策を選ぶことが優先された。その分、人への評価の視点が抜け落ちた。

 2回生議員が初当選したのは2012年、野田佳彦政権による「近いうち解散」による総選挙だった。その前の総選挙で民主党が圧勝し政権を取ったが、不慣れで稚拙な政権運営に世論の不満が高まり、風向きは自民政権復活に向かった。そうなると、票を入れるほうは「党」優先、「人」は二の次になる。小選挙区は党も人も選ぶという制度ではないのだ。

 

◆小沢一郎発言への違和感

 小選挙区制度を実現させたのは、小沢一郎氏である。「AERA」6月26日号が小沢氏にインタビューしている。彼は、英国の選挙制度を念頭に置きながら、自由主義批判を軸にすれば反安倍連立政権は可能といっている。そのうえで2大政党制が実現しないのは国民の自立心の欠如、自己主張のなさによる、とした。

 それほど簡単なことだろうか。支配する国王と支配される国民(議会)を関係づけた英国の立憲君主制と、支配しない王(天皇)と民衆を関係づけた日本の立憲君主制は同列には論じられないように思う。何より、英国の王と議会の間にある「公共」の意識が、日本にはない。このこと一つとっても、小沢氏の発言には違和感がある。

 

◆「一強体制」は張り子のトラ

 安倍一強体制は政・官・マスコミ支配によって成り立つが、このうち政治の支配は自民の圧倒的な勢力図によってもたらされている。しかし、それは「数」という表面だけでのことで、内実は空洞化している。だからこそ安倍政権は言論によってではなく、ただ「数」によって問題を解決しようとする。

 こうした中で、加計学園疑惑で出てきた数々の文書の内容を否定して回っているが、そうした政府答弁の方が間違いだったと次々に明らかになっている。例えば「指示は藤原(豊・内閣府)審議官曰く、官邸の萩生田(光一・官房)副長官からあったようです」のメールに添付された手書きメモの件。6月16日の参院予算委で山本幸三地方創生相が「陰で隠れて本省にご注進した、というようなメール」と担当職員を切り捨てたが、実は当該職員は他の省庁との連絡役を務める正規の担当者だったと6月21日付朝日が報じた。これが事実なら、連絡役の内閣府職員が、手書きメモの指示者が大臣か内閣官房副長官かを間違うだろうか。こんな基本的な事実を間違うようなら、この職員は無能というほかない。

 文科省が作成した「萩生田副長官ご発言概要」についても、萩生田氏自身は内容を否定するが、では官房副長官が高等教育局長を訪れてどんな話をしたのか。安倍首相が常々言うように、政策決定過程に一点の曇りもないのであれば、その内容は公にできるはずだ。それが「何か指摘があればその都度、真摯に説明責任を果たしていく」(6月19日の首相会見)ことになる。そのうえで、重なる部分があるのかないのか、どちらの言い分が正しいか、判断するのは国民である。もっとも、文科省職員が高等教育局長に聞いたと称して、根も葉もないフィクションを文書にして担当者の間に回すなどということは考えられないことだが。

 

◆解決策は…

 「悪法も法なり」という。選挙制度に欠陥があろうと、不正がない限り選挙結果は選挙結果である。そして、選挙制度に正解はないといわれる。選挙制度は民意を集約するためのツールにすぎない。どういった選挙制度がその国の国民に合っているかは、判別がむつかしい。そのうえで、その国の「体形」に合わせた選挙制度が求められる。今の日本の政治的不幸は、体形に合わない洋服を着せられていることが半分、トップにいる政治家が自分の言葉や振る舞いに酔いがちな、独裁者的気質を持った人間であることが半分あると思われる。

 ではどうすれば、この惨状から脱出できるか。残念ながら安倍首相は、制度の良しあしを別にすれば日本の政治システムの中では、正統な手続きを経て今の地位にある。その首相を降ろすには、基本としては選挙によって降ろすしかない。

 現行制度下で、あくまで選挙で政権交代を、という正面作戦を取るのであれば、小沢氏がいうように共産を含めた反自民連立への道しかないだろう。

 ただ、ほかに展望がないわけではない。世論調査の内閣支持率がさらに下がることが条件である。全メディアで30%台に落ち(20%台が望ましいが)、不支持率が支持率を上回れば自民党内が動揺する。党内で権力闘争が起き、政権が代わる可能性がある。政権交代が起きないという意味では不満の残るストーリーだが、現時点ではこの筋書きが現実性があると思われる。


強まる翼賛体質~加計学園問題を考える [社会時評]

強まる翼賛体質~加計学園問題を考える

 

◆再リーク恐れた政権

A)加計学園問題が大詰め局面に入った。6月16日には、半日だけにせよ安倍晋三政権は参院予算委を開かざるを得なかった。

B)その前に、民進党が国会で提示した文科省の内部文書が、全部ではないが存在が確認された。これを受けて内閣府も内部調査を行い、結果を発表した。内閣府の方はたった半日の調査だ。

C)当初から予想されたことだが、「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っている」といったことを文科省調査で追認せざるを得なくなり、それらを全面否定するための調査が内閣府側で必要になったということ。文科省と内閣府で明らかになった事実を突き合わせ、どこに真実があるかといった姿勢には程遠い。「両者の調査が必要だ」という世論を逆手に取った。

A)文科省調査ではこれまで明らかにされてこなかった文書まで公表された。「広域的に」「限り」など獣医学部新設要件を厳しくしたことを手書きで示したメモ(PDFファイル)が内閣府から文科省あてに送られ「指示は藤原(豊・内閣府)審議官曰く、官邸の萩生田(光一・官房)副長官からあったようです」と付記してあった。

B)なぜ、これまで出ていなかった文書まで公表したのか。

A)文科省では既に、加計学園問題での政権の対応に不信感を持つ複数の職員が情報をリークしている。再調査をせざるを得なくなったのもそのためだ。これほど重大な内容のメールをほおかぶりしてもいずれ外部に漏れるという危機感が松野博一・文科相らにあったためだろう。もっとも、再調査を決めたのは官邸だが。

C)政権としては、この手書きメモとメールはつぶすしかなかった。政権の生命線にかかわる。萩生田副長官は「いっさい知らぬ存ぜぬ」で押し通し、国家戦略特区の所管大臣である山本幸三・地方創生相が「自分が指示した」とした。山本担当相・藤原審議官で文科省に指示が行ったのなら正規のルートだ。そうするとメールの発信者は虚偽を言ったことになる。

 

◆官僚をスパイ扱い

A)だから山本地方創生相は、予算委でもひどい答弁をした。メールを発信した課長補佐は文科省からの出向者で「陰で隠れて本省にご注進した、というようなメール」と切り捨てた。まるでスパイ扱いだ。

B)参院予算委で福山哲郎議員も怒っていたが、安倍政権は都合が悪くなると官僚を切る。森友学園問題で、首相夫人付として注目された谷査恵子さんは今夏からイタリア勤務だそうだ。左遷か栄転かは微妙で、ありえないポストではないというが「口封じ」の意味合いは否定できない。国内にいてメディアに取材されることを警戒したのだろう。

C)松本清張の社会派ミステリー以来、政権の闇の部分をかぶらされるのはいつも課長補佐。今回の森友、加計とも同じ構図だ。

A)週刊文春(6.22号)が報じているが、文科省の「総理のご意向」文書を書いたとされる課長補佐が官邸の標的になる可能性がある。

 

◆「産業革命遺産」になぜ松下村塾?

C)週刊朝日(6.23号)では前川喜平・前文科事務次官がいくつかの疑惑に触れている。その中に「明治日本の産業革命遺産」指定の経緯に関して問題があったと語っている。

B)変な「世界遺産」だった。吉田松陰の松下村塾が指定された。なんで?という感じだ。吉田松陰の獄中記「幽囚録」を読むと、北は満州、朝鮮半島、南は台湾、フィリピンを攻めて手に入れよ、と書いている。松陰はアジア侵略思想の先駆者だった。松下村塾の塾生らが明治維新をなし、その後、松陰の精神が近代日本で具現化された。「明治日本の産業革命遺産」指定にアジア各国が反発したが、当然の成り行きだった。

C)明治維新後、スローガンとして「富国強兵」が言われたが、「富国」のための「強兵」か「強兵」のための「富国」かという議論がある。松陰もだが、この議論の延長上に西郷隆盛らもいる。上野の森で子犬を連れているイメージがあるが、西郷にもアジア侵略主義者の側面がある。

A)「世界遺産」の闇も、追及しても真相はつかめないだろう。結局は官僚の忖度で片づけられるのではないか。最悪の場合は官僚が切られる。犠牲者は課長補佐だろう。

B)安倍政権の沖縄に対する居丈高な態度も、松陰に心酔するあまりの偏狭なアジア観に根差しているのかもしれない。

 

◆「お友達」による権力ごり押し

C)内閣府の有識者研究会によると、アベノミクスによる好景気は戦後3番目の長さだそうだ。8月まで好景気が続くと戦後2番目になるという。2、3日前にNHKが報じていた。そんな実感は国民にはない。

A)また内閣府か。有識者メンバーをアベノミクス賛同者ばかりにして、そうした結論を流しているのだろう。どんどん翼賛体質が強まっている。危険な兆候だ。文科省、内閣府調査に第三者さえ入れられない日本の政治体制は、特別検察官によるロシアゲート捜査を行っているアメリカの体制に遠く及ばない。

B)翼賛体制もだが、疑惑はいつも「お友達」による権力ごり押しによって生じている。そういう意味では安倍マフィア体質といっていい。

C)政治の質が低下している。それに比例して国民の頭上には暗雲が垂れ込めている。


「国会」が死んだ日~社会時評 [社会時評]

「国会」が死んだ日~社会時評

 

◆中間報告―本会議採決という愚行

A)いわゆる共謀罪法(改正組織的犯罪処罰法)が6月15日、参院本会議で採決、成立した。委員会審議を中間報告という形ですっとばした異例の強硬策だった。

B)日本の国会は委員会制度をとっている。選挙の結果得た議員の数だけが意味があるのであれば委員会審議は必要ない。しかし、少数政党の意見も聞き、できる限り政策に反映させるため委員会審議も行われなければならない、それでこそ民主主義だという考え方があり、日本の国会もその立場に立つ。

C)とにかく数で押し切ればいい、というのでは「民主主義」そのものの意味を疑わざるを得ない。

B)佐伯啓思さんが最近「さらば、民主主義」という本を出し、民主主義、この言葉自体、「主義」なのかという疑問を呈したうえで、民主主義は必ずしも正しい結果を生むとは限らない、といっている。米国のトランプ大統領の動向を見れば、ますますその感がする。

A)佐伯さんは、民主主義は本来、民主体制と呼ぶべきだという。そのうえで「政治」の原型を生み出した古代ギリシャでは大衆を説得するための「弁論」とともにアリストテレス、プラトンといった哲学者が生まれた。民主政治はポピュリズムを不可避的に抱えるから、本当に正しいことは何かを探るには哲学者が必要だったということだろう。

C)リアルな政治の話に戻れば、与党が委員会採決を避けたかった理由は二つある。一つは、採決の際の混乱ぶりをメディアに繰り返し流されることの世論への影響を懸念した。中でも都議選への影響を憂慮した。もう一つは参院法務委の委員長が公明党であるため、強引な採決を公明が嫌がったことだ。近くある都議選では小池新党と公明が連携していることも事情を複雑にした。そのうえで、もちろん加計学園問題で国会を早く閉じたいという政権の思惑もあった。

 

◆与党議員は何を恐れているのか

A)それにしても、最近の政治は異常だ。霞が関の官僚だけでなく、国会までもが安倍晋三政権に忖度している。なぜ安倍首相がこれほど権力を持つに至ったか。

B)いわゆる三つの支配がある。一つは小選挙区制によって自民党中央が議員の生殺与奪権を握ったこと。一つは内閣人事局の設置によって官僚の人事権を握ったこと。もう一つは読売など一部マスコミをコントロールできるようにしたこと。

C)しかし、これほど異常な政権になれば、自民党内からも批判の声が上がって不思議はないと思う。なぜ静まり返っているのか。

B)石破茂・前地方創生担当相が政権に批判的な発言をしているが、支持が広がらない。それどころか政権による締め付けが強まっていると聞く。

A)民進党を中心にした野党勢力が政権を取るというシナリオは当面、現実性がない。だとしたら自民の良識派が声を上げるべきだ。安倍政権は株式操作による見せかけの経済政策以外に何もしていない。数の力でやっているのは集団的自衛権を盛り込んだ新安保法制、特定機密保護法、そして今回の共謀罪と、国民が望んでいないものばかりだ。

C)いま、加計学園をめぐる安倍政権の対応はおかしい、問題の隠ぺいだと与党内から声を上げれば確実に世論を味方につけ政権を退陣に追い込める。与党にも良識派はいるはずで、彼らはいったい何を恐れているのか。

 

◆メディアは…

B)加計問題をめぐる政権の対応については、さすがにメディアも批判を強めている。6月8日には、複数の文科省職員が「総理のご意向」文書の存在を認めているのに「調査の必要なし」とする菅義偉官房長官に対して記者が食い下がった。

A)日本のメディアも捨てたものではない、と思った。あの会見をきっかけに再調査に応じることになった。

C)あまり報じられていないが、6日にも官房長官と記者の論争があった。そのときの中心は前川前次官の辞任の経緯に関してだった。

A)前川前次官はポストに恋々とした、と官房長官が述べたことに前川氏は真っ向から反論している。会見では出会い系バーに通っていたという報道についても追及があった。

C)前川氏は次官から身を引くことを天下り問題の発覚前から決めていたとさまざまなメディアを通じて発言している。ただ、部下の官僚が内閣人事局に、天下り問題の発覚後も次官はとどまれるか、と技術的な側面から聞いたことはあったかと思う。官房長官はそういうところを取り上げて言っているのでは。出会い系バーについては、官房長官もさすがに文科省のメール問題とは別の問題といわざるを得なかった。

A)山口敬之・元TBS記者の準強姦容疑で逮捕状がもみ消された件。ジャーナリストの上杉隆氏が注目の発言をしている。逮捕状が出た後、官邸がアンカーマン岸井成格氏らの降板をTBSに求め取引したという。少なくとも事件の経過と降板前後の事実を突き合わせると矛盾はない。事実ならメディアに対する卑劣な弾圧といわざるを得ない。

 

◆「法の枠内」ならいいのか

A)義家弘介・文科副大臣が6月13日、参院農水委で、「総理のご意向」内部文書の存在を認めた文科省職員に対して恫喝ともとれる答弁をした。公にされていない行政運営プロセスについて外部に漏らせば、それが違法なものでない限り国家公務員法の守秘義務違反にあたるという。「一般論」と断っているが、明らかな恫喝であり官僚は委縮する。

B)官房長官はよく「我が国は法治国家」とか「法に従って適正に処理」とかいう。集団的自衛権を合憲だといったり、だれも説明できない共謀罪を無理やり成立させたり、歴史上例を見ないほど無法の限りを尽くす安倍政権のスポークスマンがそんなことを言う。

C)丸山真男は「軍国支配者の精神形態」で、日本ファシズムの矮小性について「既成事実への屈服」と「権限への逃避」を挙げた。「既成事実」とはもちろん戦争のことで「起こってしまったものは仕方ない」、つまり「止められない」ということ、「権限への逃避」は、自分は与えられた仕事を手続きに従って処理しているだけ、ということだったと、東京裁判での武藤章陸軍軍務局長尋問調書などを引きながら結論付けた。官房長官や官僚、与党議員らの発言はこれに重なる。安倍政権という既成事実に盲目的に従い、権限への逃避というタコツボ思考に逃げ込む。全体を見て責任を取ろうという人間は現れない。辛うじて前川さんが例外だったのかもしれない。

B)ユダヤ人として強制連行された経験を持つハンナ・アーレントはイエルサレムでのアイヒマン裁判の傍聴記を「ザ・ニューヨーカー」誌に寄せ、アイヒマンを痩せた近視の、自制心を保つことにきゅうきゅうとした小心な男と描写し、彼はただ法に忠実に従っただけとして収容所体験を持つユダヤ人らのセンセーショナルな反感を呼んだ。アーレントが言いたかったのは、戦争やファシズムは悪魔のような心を持つ人間によってではなく、法を守る小心な人間によって遂行されるということだった。

A)ファシズムとは秩序だったまとまりのなさであり、特定の哲学を持たないといったのはウンベルト・エーコだが、今の政権や霞が関の動きを見るとそういったことを連想させる。

B)日本には、天皇をブラックホール装置にして巨大な忖度が権力中枢で渦巻き、だれも理解できない戦争に突入した歴史がある。そうしたことがまるで反省も理解もされないまま今日の状況が突き進むのはとても危険だ。おそらく、戦争はこんな風にしてまた始まるんだろうな、と実感させられる。

A)最初のテーマに戻るが、官邸の「ご意向」に沿って国会の機能が停止するという状況は、全権委任法下のナチスを思わせる。安倍首相個人のスキャンダルともいえる加計学園問題の火消しのために、共謀罪という全国民の災厄ともいえる法律が強行突破的に成立させられている。

B)日本版全権委任法である緊急事態法は日本ではまだないが、既に実態としては同じ状況が生まれているということではないか。

 


安倍政権並み、メディアの体たらく~社会時評 [社会時評]

安倍政権並み、メディアの体たらく~社会時評


内調とつながる「ジャーナリスト」 

A)このところ、メディアのだらしさが目立つ。

B)ひとりの女性が5月29日、検察審査会に不服申し立てをし、その後会見した。準強姦罪の被害者としての訴えだったが、顔も出して覚悟の会見だった。相手は元TBSの山口敬之という記者だ。

C)この件は週刊新潮5月18日号、25日号で詳しく報じている。注目すべきは、新潮の取材を知った山口がすぐ内調幹部に相談していることだ。つまり、山口は自らの下半身のことも含め政権、特に内調とツーカーだったことになる。

B)新潮がかぎつけたことで山口も動揺したんだろう。新潮から来たメールを内調幹部に送ろうとして、誤って新潮に返信してしまったらしい。それで山口と内調の関係が新潮にばれた。新潮は、山口の逮捕状をもみ消したのは菅義偉官房長官の右腕である警察官僚だと報じている。

A)山口は一時、安倍晋三首相を最も知る男としてテレビでもてはやされたが、少なくともジャーナリストとしてはこれで終わりだ。彼の言動は内調にコントロールされていると見るのが常識になるからだ。

C)先の女性、仮にS・Iさんとすると、彼女は米国の大学を出て外国通信社にインターンの扱いで働いていたが、日本のメディアに就職したくて、当時ワシントン支局長だった山口を頼ったらしい。こういうケースは時々あるが、自分の立場を利用した悪辣な手口だ。


「正義」が通らない社会
A)S・Iさんのような「個人の反乱」がこのところ相次いでいる。

B)それは、見るに見かねて、堪忍袋の緒が切れて、ということだろう。森友学園の籠池泰典理事長、加計学園疑惑での前川喜平・文科省事務次官…。普通ならメディアが社会正義の体現者、あるいは代弁者になるはずだが、それがないからだ。本来、こうした人々が顔をさらす前に、メディアが彼らの人権に配慮しながら正義を押し通さないといけないが、今の時代はそれがない。

C)前川さんはあれだけの覚悟で会見したが、官邸は黙殺する構えだ。それどころか、まるで関係ない出会い系バーの話を持ち出して、人格攻撃をしている。

A)元通産(経産)官僚だった古賀茂明さんは、前川さんは平成の浅野内匠頭だといっている。松の廊下で吉良上野介に切りつけた。仇を討つ四十七士よ出て来い、というわけだ。しかし、今のところ文科省内はみんな口をつぐんでいるようだ。

B)かつて外務省機密漏えい事件というのがあり、日米密約が暴露されたが、当時の佐藤栄作政権は記者と外務省職員の不倫の事実を持ち出して裁判にも勝訴した。「情を通じ…」という判決の一言が、日米密約を暴くという正義の行為を吹き飛ばしてしまった。今回の人格攻撃の背景には、その成功体験があるのだろう。

A)文科省の官僚だった寺脇研さんが、今のメディアはひどいとツイートしている。ある全国紙からコメントを求められて応じたところ、没にされたらしい。そのコメントも載せてあったが、どこが問題なのか分からない。強いてあげれば「今の省庁は内閣府の下請けになっており、正常な内閣制度とはいえない」という部分か。それにしても、この程度で掲載が見送られるようでは、メディアもひどいものだ。

C)その新聞はどこだろう。朝毎東は少なくとも没にはしない。産経は初めから寺脇さんには聞かないだろう。だとすれば読売か。

防御に走るメディア

A)そうかもしれないが、分からない。ところで最近、田崎史郎・時事通信社特別解説委員の官邸寄り発言が目立つ。

B)彼の発言をよく聞くと、必ずしも本意ではなく発言しているとうかがえることがある。官邸寄りで発言してくれと局から求められているのではないか。

A)なぜ。

B)かつて、各局のニュース番組やNHKの「クローズアップ現代」が官邸の批判にさらされた。その時あったのは、例えば選挙報道などで発言者のバランスが取れていない、というものだった。その批判が必ずしも正しいわけではないが、テレビ局としてはそうした批判を受けないよう、外形的に整えようとしているのではないか。

C)確かに。見ている限りでは田崎氏はコメンテーターとして単独で出ることはない。例えば、多少野党寄りの発言をする伊藤惇夫氏とセットとか。局がバランスを取るための要員だろう。そのためか、テレビ朝日は肩書で「時事通信」を出さずに「政治評論家」としている。そのほうが中立を気にせず自由にものが言えるから。

B)やっぱり、安倍政権が一時メディアを攻撃したのが相当こたえているようだ。トランプ政権と果敢に闘っている米国メディアがやたら健全に見えてしまう。

A)読売が載せた安倍首相の改憲単独インタビュー(5月3日付)、前川前次官の個人攻撃報道(5月22日付)も相当ひどい。この件と、先ほどの山口氏の一件をみれば、官邸によるメディア支配の手口が見えてくる。

B)「出会い系バー通い」の読売の記事も、官邸の警察官僚を通じて流されたものだろう。こうした情報操作に加えて共謀罪が成立すれば、どんな時代が来るか。



もう、安倍政治を取り換えるしかない~社会時評 [社会時評]

もう、安倍政治を取り換えるしかない~社会時評

 

距離感が保てない政治家

A)森友学園問題に続いて、加計学園問題が政権を揺るがせている。

B)「国家戦略特区」によって加計学園が経営する岡山理科大の獣医学部新設がこの1月に認められ、今治市内で来年4月開校の運びとなった。その経緯をめぐって、当初から「加計学園ありきでは」とみられていたが、「総理のご意向」などと記した文科省の文書が民進党など野党の手にわたり、朝日新聞などが掲載したため、一気に重大疑惑になった。

C)加計学園の理事長が安倍晋三首相の「お友達」であることから、かなり以前から疑惑はささやかれていた。

A)「お友達」といえば、第1次安倍政権は「お友達内閣」といわれた。その内閣で不祥事による辞任が相次ぎ、自らの健康不安が重なって立ちいかなくなり政権の座を降りた。森友学園問題での昭恵夫人の対応といい、安倍という政治家は周囲の人間との距離感を保てない。

C)「お友達」だからこそ、一定の距離を置くようにしないと公平公正さが保てないという意識がない。それが、戦後第4位という長期政権の中で構造的腐敗となって表れた。そもそも安倍という政治家は、これだけ長期の政権を担うだけの政治的力量を持ち合わせていない。日本の政治にとっては不幸なことだ。

 

重みある前川発言

A)この1月まで文部科学事務次官だった前川喜平氏が、文科省の文書について本物と証言した。5月23日に朝日新聞の取材に応じ、25日にはTBSのインタビューに応じるとともに都内で会見。同じ趣旨のことを述べた。加計学園問題さなかの文科省で事務方トップにいた人物だけに、発言に重みはある。

B)それだけ、あちこちでハレーションを起こしている。文科省内では「在任中に闘わずに、今になって」という声もあるという(26日付朝日)。官房長官をはじめ閣僚からも、事務方トップにいる間に言うべきだったと批判もある。

C)それは問題点がずれている。事務次官の仕事は多々あるから、内閣府に正論を言って自爆することだけが正しい道ではない。隠忍自重という道もある。

A)たしかに。事務次官は正論を言うことも必要だが、文科省という組織を守り育てることも重要だ。退職した今だから言えるということもある。

B)官房長官は「地位に恋々としがみつく人」と人格攻撃をしたが、再就職あっせん問題では、前川氏本人の意に沿っていたかどうかは別にして、文科省の組織を守ろうとしたのかもしれない。いずれにしても、地位に対する欲だけでその人の行動を推し量るのは浅はかな気もする。

A)城山三郎の「官僚たちの夏」という小説があり、気概あふれる官僚群像を描いていた。中心にいたのはミスター通産省といわれた佐橋滋だった。政財界をものともせぬ硬骨の人だった。

C)あのころは高度経済成長の時代。今と少し違う。国家のデザインを描くのに官僚組織のけん引力が必要な時代だった。今は、官僚主導から官邸主導の時代になった。民主主義社会の成熟という点でいえば、このほうがいい。

B)政治が官僚を動かすというのは基本的にいいと思う。しかし、その官邸に「お友達」への距離感がないとか、一定の見識がないとなると話は別だ。

 

低劣な読売「醜聞」記事

C)5月22日付読売新聞に「前川前次官 出会い系バー通い」が掲載された。これもひどい記事だ。「教育行政のトップとして不適切な行動」というが、在任中の行動とはいえ既にやめた人。どれだけのニュースバリューがあるのか。それなのに社会面の2番手4段だ。

A)このタイミングで意味のないスキャンダル記事が出てくること自体、政治的な思惑を感じる。見出しにも違和感がある。教育行政のトップが出会い系バーに行ったことが問題なら、見出しは「文科省前次官 出会い系バー通い」となるはずだ。前川前次官が個人としてそれほどの有名人だったとは思えない。勘ぐれば、一連の文書の出どころと見た官邸が、前川氏を標的にして書かせたものだろう。そうだとすれば、読売には報道機関としての最低限の矜持もない。先の安倍首相による改憲インタビュー掲載と合わせれば、読売は官邸の広報紙になり下がった。

B)さすがに、菅義偉官房長官も読売との関係を探られることは警戒していて、前川氏の出会い系バー通いは関知しないといっているようだ。もし、前川氏の在任中の行動をリークしたのが官邸だとすると、文科省の文書に対する一連の前川発言について「既にやめた人だからコメントしない」というのは都合のいい二重基準だ。

C)二重基準といえば、改憲発言では「憲法学者の7割が自衛隊を違憲だといっている」ということを根拠にしたが、安保法制では憲法学者の9割が「違憲」だといっても耳を貸さなかった。政権を批判する相手に対しては醜聞ネタをリークし、議論に際しては二重基準を都合よく使い分ける。それが事実なら「反知性」が安倍政権の体質のようだ。

 

政権交代をどう起こす

A)ではどうすればいいか。

B)問題のよって来たるところは、安倍という政治家としての資質に欠ける人間に過度な権力が集中したこと。その淵源は小選挙区制度というバイアスのかかりやすい投票制度にある。この制度は、バイアスがかかりやすい代わりに本来は政権交代も起こりやすい制度。だから、二大政党制であれば、英米で見られるようにこの制度はもっとうまく機能する。しかし、日本にはリベラルを基軸にしたオルタナティブな政治勢力が育ちにくいことがほぼ常識になりつつある。であるなら、自民党内に清話会に匹敵するだけの対抗派閥を作るしかない。麻生太郎副総理を中心に今、大宏池会構想が進められているが、次善の策としてこれに期待するしかないか。

C)「おごりと腐敗」の安倍政権を取り換えることが、今最も重要なことだろう。

A)スカッとした妙案はないようだ。



なぜか今、改憲議論 [社会時評]

なぜか今、改憲議論


■まるで読売の勧誘員

A)安倍晋三首相が読売新聞のインタビューに応じ、5月3日付で掲載された。ポイントは三つあって、まず改憲の目安を2020年としたこと、二つ目は憲法9条の1項、2項を現状のまま残し、新たに3項を加えて自衛隊の存在を認める文言を盛り込むこと、三つ目は教育無償化を前向きに議論すること―。大まかにはこんなところか。同様の趣旨のビデオメッセージが3日の改憲派の集会で披露された。

B)これを受けて8、9日の衆参予算委で野党が真意を説明するよう求めた。すると首相は「自民党総裁としての考え」「詳細は読売を読んでほしい」とかわした。

C)一国の首相がまるで読売の販売勧誘員のような答弁をした。「国会軽視」と野党が怒るのも無理はない。

B)その読売を読んでみたが、見出しは「首相インタビュー」だ。記事も「安倍首相(自民党総裁)」という書き方だった。常識では首相と自民党総裁が全く別人格として存在するわけではなく、やはり国会で求められれば憲法への考え方は説明すべきだろう。そうでないと国民は納得しがたい。

A)改憲目標を2020年にしたことについて。

B)オリンピック成功を受けて国民が高揚している時についでに憲法改正も、という狙いだろうが、オリンピックと憲法は何の関係もない。オリンピック憲章にあるように、オリンピックは都市が開くものだし、憲法は国の土台を定めるものだ。ドタバタに紛れて二つを結び付けようというのはこざかしい。

C)私は、憲法改正そのものはあってもいいと思うが、このような設定の仕方にはやはり抵抗がある。年限を切らずに議論すべきだ。

A)今回は本丸ともいえる9条改正を持ち出してきた。96条改正を言ったり緊急事態条項を言ってみたり、9条改正でも自民党がつくった憲法改正草案とも違う。ただ憲法改正がやりたいだけ、と思わざるを得ない。

 

■9条3項追加には無理がある

C)9条の1項、2項はそのままに、新たに自衛隊を認める3項を追加するというのは無理がある。インタビューで「(自衛隊は)『違憲かもしれないが何かあれば命を張ってくれ』というのはあまりにも無責任」と改憲理由を述べているが、1項と2項を残したまま自衛隊員が「命を張る」根拠が憲法に盛り込めるとは思えない。

A)どういうことか。

C)1項は「武力による威嚇または行使によって国際紛争解決の手段としてはならない」とある。2項は戦力不保持と交戦権の放棄だ。1項は自衛のための実力行使は国際紛争に当たらないという論理的な逃げ道があり、2項の「戦力」と「自衛力」は違う、という解釈があるかもしれないが、問題は交戦権の放棄だ。これはほかの解釈がない。憲法によると、自衛隊は戦ってはならないことになっている。

B)だから9条は現行のままとし、自衛隊は自衛のための最終手段として実力を行使する。これが日本の防衛の在り方ではないか。

C)自民党が2012年にまとめた「憲法改正草案」は出来が悪く、読んでみて気持ちの悪くなるものだが、9条に関する限り、3項を追加するより自民案の方が筋が通っている。自衛隊を国防軍とし、2項を削除して交戦権を認める。少なくとも日本が戦争できるようにするにはこの方法しかない。そうすれば軍事法廷も大っぴらにつくれる。

B)軍事法廷に関しては憲法76条「特別裁判所の禁止」を変えないといけない。しかし、9条を改正して交戦権まで認めるという情勢になれば、76条も変えようということになるだろう。
A)それは、自衛隊にとっていいことか。

 

■戦争をするための精神的装置

C)少なくとも「戦争させる」側にとっては都合がいい。しかし、「戦争をして命を捨てよ」というには、憲法だけではだめだ。イデオロギー的側面というか、戦前の靖国神社のような、「戦場で死んだら靖国で会おう」というような精神装置がいる。そこまで考えると、自衛隊の国防軍化は、いったん戦争へ走り出すと後戻りできない体制を作り出しかねない。

B)ある講演で、自衛隊に入る若い人たちに動機を聞いたところ、災害地域の復旧作業がやりたいという声が多かったと聞く。自衛隊はそういう位置づけでいいのではないか。その延長線上で、他国が攻撃してきたときに備えて、21世紀の時代にそんなことはないと思うが、必要最小限の実力装置を持つ、ということでいい。

A)最近、北朝鮮の脅威がよく話題になる。

B)北朝鮮も、自らが口火を切って戦争を始めるとはいっていない。そんなことをすれば一瞬で国そのものが消滅することは分かっている。独裁国家だから暴走する、というが、独裁国家だから暴走しないともいえる。偶発的な衝突はむしろ権力集中が生半可である場合に起きる。しかし、日本海側にあれだけ原発を並べておいて「北朝鮮の脅威」もないだろう。

A)首相はインタビューで憲法学者のうち7割が自衛隊は違憲の疑いがあり合憲論は2割しかない、といっている。

B)調べてみると、2015年6月下旬の朝日新聞調査が根拠らしい。209人にアンケートし122人が回答。このうち「憲法違反」が50人、「憲法違反の可能性」が27人だった。微妙なのは「憲法違反にあたらない可能性がある」の13人をどう読むか。「憲法違反にはあたらない」は28人だった。「憲法違反にあたらない可能性」は「もしかするとあたるかもしれない」とも読め、首相はこれを含めて「違憲の疑い」を7割としている。

C)今の時代に、自衛隊は憲法違反だからなくそう、とはならないだろう。かといって改憲まで考えると、「国防軍」の議論が再燃する。それは自衛隊にとっても国民にとっても不幸なこと。9条「加憲」論も無理がある。

B)朝日の調査でも、122人中99人が9条改正の必要はないと答えた。

A)三つ目の教育無償化は。

B)憲法をいじらなくても通常法の範囲内でできる話。9条「加憲」で公明を、「教育無償化」で維新を取り込もうという、政局のにおいがプンプンする。

 

■安倍政権の偽物感

A)こんな荒唐無稽な憲法論議が首相から持ち出され、森友学園問題では誰が見ても首相夫妻の関与が明白なのに首相自身は官邸でのうのうとしている。一強他弱の腐敗と堕落は見ていられない。

B)自民党が2012年に出した改憲草案と今回の改憲案はどういう位置づけにあるのか。党の案を総裁自ら無視するようでは政党の体をなしているとはいえない。自民党と明確な対立軸を作れない民進党もだらしない。少なくとも原発、憲法、沖縄―日米安保を対立軸とする政権構想を持たないと。その結果として国会の議論の空疎さは目を覆いたくなる。共産党は首尾一貫しているが、だからといって共産党政権ができる時代状況にはない。

C)森友学園問題の背景にある日本会議への傾倒でもわかるように、安倍政権はある種の危うさを持っている。いわば偽物の保守だ。本来の安定的で常識的な保守がもっと力を持つべきだろう。選挙制度を変えるのでない限り、常識の保守とリベラルが組んだ政治勢力が台頭しないと日本の針路は危うい。今は改憲よりそちらの議論が大切なのだが。

B)5月3日付朝日に長尾龍一・東京大名誉教授のインタビューが載っていて「日本国憲法は民法でいう『履行による追認』にあたる」という言葉があった。瑕疵があって取り消せる契約でも、義務者の側で履行すれば取り消せなくなる。成立過程に「押し付け」という瑕疵があったとしても、保守本流を含めて憲法の精神は履行されてきたのだから、その追認の意味は認めるべきだ、という論旨だった。

A)たしかに、憲法は70年間、変わらず国民の精神的支柱になってきたことは確かだ。その重みはある。