さりげなく描く家族の再生~映画「コットンテール」 [映画時評]
さりげなく描く家族の再生~映画「コットンテール」
老境に差し掛かり妻・明子(木村多江)に先立たれた文学者・大島兼三郎(リリー・フランキー)は、彼女が言い遺した望みを果たそうと英国を旅する。愛した北西部の湖沼地帯ウィンダミアに遺灰をまいてほしいというものだった。永年、疎遠だった息子・慧(錦戸亮)と妻さつき(高梨臨)、4歳の娘エミも同行する。
若年性アルツハイマーだった妻は苦しみながら死んでいった。そのことへの慚愧、十分な介護をしてやれなかったという悔い、それらが折り重なり生まれる孤独感。旅の中でそうした感情と向き合いながら、慧との関係を誠実に修復しようとする兼三郎。
英国内では道に迷い、住民の家に寄宿する。彼らの善意がありがたい。そうしたエピソードを織り込み、ロードムービー仕立てでドラマが進行する。
リリー・フランキーは複雑で繊細な心理を表現。小説の行間を読んでいる味わいだ。脇で支える木村、錦戸も好演。
タイトル「コットンテール」はピーターラビットの童話から。明子が幼少のころ訪れた「ピーターラビット」の舞台ウィンダミアに散骨を願ったという設定に由来する。日本的にいえば「幸せを運ぶウサギ」。果たして、妻(母)を亡くした一家の再生の行方は―。
さりげなく、優しく、心温まるドラマ。老いとは、愛とは、家族とは何かをあらためて考えさせてくれる。リリー・フランキーの存在感が際立っており、彼でなければ成り立たない作品だろう。
2023年、日英合作。監督パトリック・ディキンソン。