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結末、すっきりしない~映画「罪と悪」 [映画時評]

結末、すっきりしない~映画「罪と悪」


 ある地方都市。3人の少年が思いもつかぬことで殺人を犯す。一人が罪をかぶる。22年後、秘密を抱えたまま3人は再会する―。この設定は、とても魅力的だ。しかし、観終わった感想は「なんだか、すっきりしない」。なぜだろう。

 春と晃と朔は中学のサッカー部員だった。試合の日、もう一人の部員・正樹は来なかった。翌日、河原で正樹の遺体が発見された。一方でもう一つの事件が起きていた。老人が殺され、住んでいた作業小屋が放火された。春が逮捕された。
 22年後。春は少年院を出て建築会社を経営。街の不良少年を束ねていた。晃は父親と同じ警察官に。朔は引きこもりの兄・直哉の面倒を見ながら農業を継いだ。そんなおり、春のもとにいた小林大和が殺された。遺体の状況は、正樹のときに似ていた。遺品の中に、正樹の財布があったことから、二つの事件は結びつくかに思えた。春は正樹が殺される直前、その財布を直哉に託していたことを思い出した。直哉の部屋に向かうと既に自殺、正樹殺害の凶器と思われる石が見つかったことで直哉が犯人とされ、被疑者死亡で二つの事件は解決したかに思われた。
 3人は夏祭りの夜、再会する。そこで思わぬ真相が明らかになる。老人を率先して殺したのは朔だった。なぜか。問い詰められて事件直前、朔と正樹は老人から性的暴行を受けたことが明らかに。そのことを春に漏らしたと邪推した朔が、正樹を殺したのだった。さらに春の口封じのため、小林少年を殺害、罪を着せようとしていたのだった。

 ここに書いたのはストーリーの幹部分だが、それでもかなり込み入っている。春が受けた家庭内暴力、晃の父や上司佐藤(椎名桔平)の腐敗ぶり、地域の暴力団のトップに君臨する白山會会長・笠原(佐藤浩市)の存在などが背景として描かれる。罪をかぶるものと本当の悪は違うと言っており、タイトルにつながる。
 あらためて俯瞰すると、枝葉が多く幹の部分が浮き立っていない。もう一つ、第一の殺人は腹に落ちるが、第二の殺人はそうならない。少年時代の性的暴行被害を隠し通すため、何の関係もない少年を殺すだろうか。さらに、第一の殺人の被害者の財布を22年間、持ち続けるだろうか。こうした疑問がぬぐい切れないことが冒頭の「すっきりしない」感につながっている。春に罪を着せるため行った小林少年殺しの容疑が、春に向かわず直哉に向かったという流れも頭を混乱させる。
 2024年製作。井筒和幸監督らの助監督を務めた齊藤勇起の監督デビュー作。


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