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米国式の大団円で終わる英雄物語~映画「ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実」 [映画時評]

米国式の大団円で終わる英雄物語~
映画「ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実」


 ベトナム戦争が最も激しかったころ、窮地の米軍兵士を救うため命を落とした空軍医療兵がいた。助けられた兵士たちは名誉勲章授与を求めたが、なぜか却下された。30年以上たって一人の空軍省の官僚が調査に乗り出した。そこには軍上層部の作戦の失敗があり、勲章授与が拒否されたのは、失敗を闇に葬るためだった…。

 1966年4月11日、ベトナムのアビリーン作戦の戦場は地獄と化した。包囲された米兵にベトコンが総攻撃を仕掛けてきたのだ。空軍ヘリが負傷者救出に向かったが、密林のため着陸できない。単身、地上に降り立ったのは落下傘救助隊のピッツェンバーガー(ジェレミー・アーバイン)だった。彼によってヘリにつり上げられ命を取り留めた兵士は数十人にのぼった。
 空軍省官僚のハフマン(セバスチャン・スタン)は、ピッツェンバーガーになぜ名誉勲章を授与されなかったか調査を指示され、渋々関係者の証言集めを始めた。
 ピッツェンバーガーの父(クリストファー・プラマー)や、帰還後に精神を病んだジミー・バー(ピーター・フォンダ)ら助けられた兵士の話を聞くうち、真相が分かってきた。勲章の推薦状が紛失していることも謎だった。ハフマンは、推薦状を書いたケッパー元軍曹がベトナムにいると知り、彼を訪れた。ケッパーが案内したのは蝶の飼育小屋だった。「ここが、ピッツェンバーガーが下りた場所。彼は天使に見えた」と語った。
 ハフマンはついに、アビリーン作戦の立案者も突き止めた。ホルト上院議員(デイル・ダイ)だった。彼を直撃した結果、真相が明らかになった。第一歩兵師団C中隊を敵地に突っ込ませ、ベトコンが攻撃を始めたらAB中隊が挟撃するという「おとり作戦」だった。しかし、ベトコンの予想を上回る攻撃にC中隊は混乱を極めた。援護の砲撃を要請したが、射程距離を誤り味方を誤射する事態も招いた。作戦の失敗を引きずるホルトは議会に勲章授与を認めるよう求めたが、門前払いにあった。
 ハフマンはついに真実の公表に踏み切った。メディアで報道され大統領が動き、ピッツェンバーガーの両親に「栄誉勲章」は贈られた…。

 ざっとこんな話だが、ベトナム戦争当時の米国の理不尽さを多少とも記憶する人間には腑に落ちないことが多い。「大義なき戦争」といわれたことは、今やどうでもいいのか。ハフマンの眼を通して証言者たちの「帰還後」がさりげなく描かれてはいるが、戦死した兵士は多くのベトナム人を「殺害」した果ての「犬死」であることに変わりない。一方で、権力者たちの保身をはねのけて真実を明らかにするハフマンの行動は一見美談に見えるが、勲章一つで名誉が回復するわけでもないだろう。戦争の意味を問い直すことなしに、英雄的な行動をした空軍兵士と、地上戦を戦った兵士たちで形成された「愛国」精神がそのまま大団円でラストシーンとして映像化される。これぞアメリカといえばアメリカだが…。「プラトーン」や「地獄の黙示録」に比べても、何かが足りない気がする。

 2019年、米国。


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