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間違いなく三池ワールド~映画「初恋」 [映画時評]

間違いなく三池ワールド~映画「初恋」

 

 ボクシングと暴力と淡い恋。そんな三つの味で出来上がっている。

 幼いころに捨てられ、親の顔さえ知らない葛城レオ(窪田正孝)は、ある試合で不覚のパンチを受けリングに沈む。不吉な予感がした彼は病院を訪れ、脳腫瘍と診断された。「俺の人生も終わり」と絶望感に打ちひしがれ新宿の街をさまよう眼に、逃げる女と追う男が飛び込んできた。「助けて」の声にとっさに反応、男に一発を食らわせた。

 男はマル暴担当の悪徳デカ大伴(大森南朋)で、女は父親によって暴力団に売られ、薬物中毒に悩むモニカ(小西桜子)だった。大伴のポケットから警察手帳を発見したレオはモニカとともに逃げる。二人の長い夜が始まった。

 発端は暴力団の一員・加瀬(染谷将太)が覚せい剤の横取りをたくらんだことだった。加瀬は、暴力団と一体になっていた大伴に計画を持ち掛け、売人の元締めヤス(三浦貴大)を殺害。犯行の主を突き止めたヤスの情婦ジュリ(ベッキー)や暴力団の昔気質の幹部・権藤(内野聖陽)、それに中国マフィアの女チアチー(藤岡麻美)、権藤と敵対するワン(顏正國)らが絡み、追いつ追われつの大活劇? が展開される。逃走劇の末、レオに病院から電話がかかった。それは意外な内容だった―。

 窪田は「ふがいない僕は空を見た」で、脇役だが母一人子一人の貧しい青年役でいい味を出した。今回も、薄幸のボクサーを存在感たっぷりに演じた。そしてなにより、やくざの情婦を演じたベッキーがすごい。

 アナーキーな世界を駆け回った挙句、小さなアパートでひっそり暮らすことを選んだレオとモニカの姿にはかつての藤田敏八監督「スローなブギにしてくれ」のラスト(片岡義男の原作にはない、映画の創作)を思い出させるものがあった。

 監督は「一命」の三池崇史。好き嫌いはあるが、間違いなく「三池ワールド」である。2019年、日本。


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