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「結婚」の意味を問う~映画「Red」 [映画時評]

「結婚」の意味を問う~映画「Red

 

 島本理生の原作は読まないまま、映画「Red」を観た。性描写が多く賛否両論がある、ということでなんだか気が進まなかったからだ。映画は原作よりややソフトに仕上がっている、とのことだった。

 塔子(夏帆)はエリート商社マンの村主真(間宮祥太朗)と結婚、豪邸の中で傍目には何不自由ない生活を送っていた。しかし、内実は息の詰まるものだった。失跡した父のことを隠し、飾り物のように扱われ、義母との関係に気を遣い、つま先立ちで送る日常。そんなある日、かつての恋人・鞍田秋彦(妻夫木聡)と再会した。

 二人は10年の時を越え、再び愛し合う。塔子は子育てが一段落したことから再び社会に出ることを希望する。こうして鞍田と塔子は同じ建築事務所で働くことになった。しかし、鞍田は10年前と違ってリンパ性白血病に冒されていた。設計を任されていた新潟の酒蔵の工事が大詰めに来て鞍田は体調を崩し、代わりに塔子が出張する。工事は乗り切ったものの、大雪で東京へ帰ることが困難だった。自宅へ電話するが、夫は子供のために帰ってこい、という。結局、大雪の中を塔子は東京を目指す―。

 夫の真は恵まれた生活環境だが、一方で家父長制に何の疑問も抱かないマザコン男として描かれる。鞍田は、不倫を承知で塔子を犯す「ひどい男」として、一方で難病を抱える命の儚さの象徴として描かれる。二人の男の間で揺れる塔子の心。そんな塔子に母の陽子(余貴美子)が浴びせた言葉は…。

「嘘をついて幸せなの? 人間さ、どれだけ惚れて死んでいけるかじゃないの?」

 

 極めて楽天的な目からすれば、塔子の悩みは「遅ればせのマリッジブルー」と見えなくもない。しかし、それでは塔子がかわいそうだろう。一方で、塔子と鞍田の関係を「失楽園」のそれ、つまり不倫関係と見るのは。それも違っているだろう。「失楽園」は、既存の婚姻関係を不動として物語を構築したが、「Red」は少なくとも現状の婚姻制度そのものの意味を問う、という視点を秘める。

 そして真も鞍田も、それぞれが一つの典型として描かれているが、現実の人間はこの二人の間のどこかに位置している。そう見れば、問いの持つ普遍性が分かってくる。

 最終的に塔子は「一人で歩いていく」という選択をするが、ここに込められた意味は大きい。大仰に言えば、その一点を掘り進めば、現行の「閉じられた一夫一婦制」は近代社会が産み出した「病」ではないか、という地点にまで到達しえても不思議はない。

 思いのほかテーマ性のある「重い」映画と実感した。監督・三島有紀子の力技。ただ、吹雪の中の塔子と鞍田のシーンで舞う赤い布の意味は今一つ理解できなかった(タイトルも含めて)。赤は血の色、炎の色であることから人間の情念、赤い糸を連想させるが、そういう線上の表現ということか。

 2020年、日本。

 


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