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美しくも哀しい「喪失」の物語~映画「柳川」 [映画時評]

美しくも哀しい「喪失」の物語~映画「柳川」


 過ぎ去った過去は美しく切ない。その美しさの裏に張り付いているのは、喪失体験がもたらす哀しさである。哀しさが美しい輝きを放っている。映画「柳川」は「喪失」をめぐる4人の物語である。

 北京に住むドン(チャン・ルーイー)はある日、末期がんを告げられた。余命を悟り、兄のチェン(シン・バイチン)に日本の柳川に行こうと誘った。兄のかつての恋人リウ・チアン(ニー・ニー)と同じ名前の場所だから、という理由だった。20年前に姿を消し、そこに住んでいるという。既に結婚し仕事もあるらしいチェンは戸惑うが…。

 柳川市内のゲストハウスらしきところに二人は立っている。美しい風景。どこかのライブハウスで歌うチアン。居酒屋のおかみ(中野良子)との何気ない会話。
 兄弟はチアンに、なぜ突然姿を消したのかを問う。チアンは家庭の事情でロンドンに行ったことを明かした。それぞれ、チアンの部屋を訪れ関係の復活を目指すが、ともに挫折する(ここで、ドンにも恋心があったことが明らかになる)。
 彼女が柳川を訪れたのは、ゲストハウスのオーナー中山(池松壮亮)の存在があった。ロンドンで知り合った。中山には15歳になる娘がいたが、家出? をして今は不在。ここにも喪失の物語があった。
 1年後。チェンのアパート。チアンが訪れ、ドンが住んでいた部屋を見せて、という。ベッドは思いのほか狭く小さかった。思い出に浸るかのように、丸くなって横になったチアン。チェンは小さな何か(マイクロリコーダー?)を渡した。ドンの遺品だろう。「きれいさっぱり、何も残さないって言っていたのに…」とつぶやくと、彼女はアパートを出ていった。

 柳川を舞台に、かつての青春の美しい光景が思い出として語られる。喪失の、まだ去らぬ痛みとともに。抑制のきいた画調に余情漂う映画である。監督は中国のチャン・リュル。ほかに「慶州」「福岡」と、アジアの街を描いた作品がある。


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