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事件の裏側にある深層心理を探る~映画「ファーストラヴ」 [映画時評]

事件の裏側にある深層心理を探る~映画「ファーストラヴ」


 島本理生の同名の直木賞受賞作を映画化した。公認心理士(※)を主人公とし、ある事件の真相解明を縦糸に、彼女自身の心理的葛藤と人間関係を横軸にドラマが進行する。島本の作品は芥川賞、直木賞のいずれが似合っているかがよく議論されるが、この小説に限って言えば「心理小説」と呼ぶのが似合っている。ただ、ジャンル分けしたり、レッテル貼りをしたりすることにどれほどの意味があるのか、と問われればその通りだが。

 女子大生の聖山環菜(芳根京子)が父親の聖山那雄人(板尾創治)を殺害した容疑で逮捕された。血まみれの包丁を手に堤防をさまよい、逮捕後も「動機はそちらで見つけて」と語ったと、センセーショナルに報道された。公認心理士の真壁由紀(北川景子)に、環菜の心理解明を通じてノンフィクションを書かないかと出版社から依頼が舞い込んだ。由紀は受けた。
 環菜の国選弁護人は、偶然にも大学の同期だった庵野迦葉(中村倫也)だった。彼は由紀の夫・真壁我聞(窪塚洋介)の弟だった。しかし、幼いころの家庭の事情から我聞の家で育てられ、実の兄弟関係にはなく、そのため姓が違っていた。由紀と迦葉の手で真相解明が始まった。
 環菜は当初、心を閉ざしたが、由紀の懸命の努力の結果、少しずつ心を開くようになった。血のつながらない父親との関係、幼いころ、画家である父の手伝いとしてモデルをやらされたこと、コンビニのアルバイト店員との秘密の関係。それらを吐露することで、心理的な束縛から解放され始めた。そしてついに「父親を殺していない」と主張する。法廷の行方は…。
 由紀と迦葉は、実は大学時代から知人関係にあった。その後由紀は、写真家として将来を嘱望された我聞と付き合い、結婚に至った。しかし、由紀は迦葉との関係を秘密にしていた。心の闇として抱えるに抱えきれなくなり、葛藤する。
 環菜には自傷癖があり、手首に無数の傷跡を持っていた。どこに原因があるのか由紀は問いただすが、環菜の闇は深かった…。

 原作をほぼ忠実に映画化した。したがって、ドラマの出来は原作によるところが大きい。そのうえでいえば、北川景子は熱演。やっと女優らしくなったか、という感慨がする。
 2012年、日本。監督は堤幸彦。「望み」や「人魚の眠る家」で家族とは何かを問い続けている。堅実な手腕は「ファーストラヴ」でも生かされている。

※原作では臨床心理士、映画では公認心理士という用語が使われている。公認心理士法は2015年に成立、17年施行。国家資格としての公認心理士が成立した。いいかえれば17年以降、公認心理士は国家資格であり、臨床心理士は民間資格ということになった。「ファーストラブ」の初出は別冊文芸春秋1618年、直木賞受賞は18年。このタイムラグが影響して原作と映画の表記の違いが生まれたと推測される。


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ファーストラヴ (文春文庫)

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