美しいアルプスが印象的~映画「ある一生」 [映画時評]
美しいアルプスが印象的~映画「ある一生」
1900年代初頭から80年、貧困、暴力、戦争の時代を生きた男の物語。ローベルト・ゼーターラーの原作は、世界40言語で翻訳され160万部以上刊行されたという。そんな惹句に乗って、見てしまった。正直、主人公の生き方に何を学ぶべきか、よくわからなかった。
少年アンドレアス・エッガー(イヴァン・グスタフィク)は母が亡くなり、オーストリア・アルプスで農園を営む遠い親戚(アンドレアス・ルスト)に引き取られた。そこでは、肉親としてではなく労働力としての待遇が待っていた。ミスをすれば容赦ない体罰が与えられる。成人すると養家を出て林業や観光施設(ロープウェイ)建設などの労働で生計を立てた。
エッガーはやがてマリー(ユリア・フランツ・リヒター)と出会い、家庭を持つ。しかし、幸福の時間は長くは続かない。深夜の雪崩が、マリーと身ごもっていた子の命を奪った。
そして戦争。東部戦線(独ソ戦線)へ招集され、ソ連での長い捕虜生活。戦後帰国し、一人老境を送る…。
昔見た朝ドラ「おしん」のオーストリア版のよう。激動の20世紀を愚痴も言わず、じっと耐えて武骨に生きた人生である。原作(未読)はおそらくもっと書き込んであり内容も深いのだろうが、映画は時代の流れを表面的に追った印象が強い。
その中で、見る価値があったのはオーストリア・アルプスの美しさ。どんな過酷な運命も、この美しい山々があれば受容できる、そう言っている。この部分は説得力があった。
国破れて山河在り、である。
2023年、ドイツ・オーストリア合作。監督ハンス・シュタインビッヒラー。エッガーは年代ごとに3人の俳優(18‐47歳シュテファン・ゴルスキー、60-80歳アウグスト・ツィルナー)が演じた。