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ナチへの復讐に燃えた男は~映画「フィリップ」 [映画時評]

ナチへの復讐に燃えた男は~映画「フィリップ」


 ポーランド人作家レオポルド・ティルマンドが自らの体験をもとに書いた小説を映画化した。
 1941年のワルシャワ・ゲットー。ポーランド系ユダヤ人のフィリップ(エリック・クルム・ジュニア)はあるイベントでナチの急襲にあい、恋人や家族を失う。たまたま死を免れ、組織の支援で偽造パスポートを入手、フランス人になりすましたフィリップは、ドイツ・フランクフルトにホテルのボーイとして潜伏する。

 ワルシャワ・ゲットーとは。
 1939年のナチ侵攻後、ポーランド社会とユダヤ人の交流を断つため翌40年に境界が封鎖された。ワルシャワ市域の2.4%に全市民の3割に当たるユダヤ人が押し込められたという。当初は自治が認められキャバレーや高級レストランも存在したが飢えと不衛生が深刻化、42年初めのヴァンゼー会議後に絶滅収容所への移送が始まった。こうした時代背景を持つ。

 フィリップは、前線に赴いたナチ将校の夫人らを狙って性的関係を持った。ナチ独裁下では、ドイツ人女性と関係を持った他国人は死刑が宣告され、女性も髪を切られた。ゲルマン民族の純血を守るためとされた。女性も、共犯関係にあるためうかつに秘密を明かせなかった。
 戦後ドイツではこれと逆転した光景が見られた。ナチスに協力した女性が髪を切られ、街頭を引き回された。写真などで残されている。
 復讐は氷のような心で行われた。ドイツ人女性と性的関係を持つことで服従させ、侮蔑的な言葉を囁き娼婦のように捨てる。ゲットーにいた時のような誇りと生気は消えていた。
 しかし、フィリップの感情が揺れ動く瞬間が来る。プールサイドで会ったリザ(カロリーネ・ハルティヒ)に心を惹かれ、パリへ逃亡を企てる。ホテルではナチ将校の結婚披露パーティーが開かれることになっていた。そんな折、ロッカールームからワインが見つかり、盗んだとされた同僚のピエール(ヴィクトール・ムーテレ)はその場で射殺される。親友の死に涙し、再び復讐の炎を燃やしたピエールのとった行動は…。

 ホテルのパーティーでは男女合わせて5人の死体が並ぶ。ゲットーでフィリップが見た家族らの死体と同数と思われる。
 監督ミハウ・クフィェチンスキ。アンジェイ・ワイダ監督「カティンの森」(2007年)などのプロデューサーを務めた。心理を武器にした復讐劇、という面白さがある。


フィリップ.jpg


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