極限に向かう排除と抵抗~映画「バティモン5 望まれざる者」 [映画時評]
極限に向かう排除と抵抗~
映画「バティモン5 望まれざる者」
パリ。バンリュー(郊外)は「排除された者たちの地域」という意味も併せ持つ。戦後の住宅難解消のため建てられた高層団地は、1960年代からシリアなど中東や北アフリカからの移民居住地域になった。犯罪多発地域の厳しい取り締まりに対する住民の憎悪・怒りをドキュメンタリー風に描いた「レ・ミゼラブル」は記憶に新しい。監督は、この地域に生まれたラジ・リ。同じ監督の新作が「バティモン5」である。タイトルはバンリューの一角の名称からとった。
老朽化して危険な高層団地を取り壊し、再開発を進めようとする市側と住民の出口なき対立を描いた。
一種の群像劇だが、主な登場人物は3人。ピエール・フォルジュ(アレクシス・マネンティ)は前市長の急死でパリの臨時市長に就任した。もとは医師。治安が悪化する移民居住区の再開発が目前の課題だが、たまたま団地で発生した火災を奇貨として強引に住民を追い出し、計画を進める。
マリ出身のアビー・ケイタ(アンタ・ディアウ)はこうした動きに反発。新団地の間取りが小家族向けで移民対応でないことに抗議しデモを計画する。合法的な運動で解決を図ろうと、市長選出馬を考える。
追い出された住民に絶望と怒りが広がる中、ブラズ(アリストート・ルインドゥラ)が市長宅を襲う。排除と抵抗がぶつかり極限状況へ向かう。
市長の妻ナタリー(オレリア・プティ)や副市長のロジェ・ロシュ(スティーブ・ティアンチュ)ら、移民の境遇に理解を示す人たちもいる。しかし、同情や善意だけで道は開けない。それが基調低音になっている。
フランスでは6月の国民議会選で極右の国民連合(RN)が第1党となった。2回投票制のため与党連合と左派連合が候補を調整、RNを封じ込めたが、政権の不安定化は避けられないとみられている。背景に、映画が描いた移民の急増→「郊外」乗っ取り→治安悪化がある。フランスの行方に影を落とすこの問題、解答は容易に見つかりそうにない。
2023年、フランス・ベルギー合作。