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半世紀前の行動が問われる~映画「ジョーンの秘密」 [映画時評]

半世紀前の行動が問われる

~映画「ジョーンの秘密」

 

 先日観た「オフィシャル・シークレット」は、一言でいえばスパイ活動は目的が正しければ是認されるのか、という問題提起であった。最終的に検察側の判断によってスパイ活動を行った英政府機関の女性は無罪放免された。この「ジョーンの秘密」も、スパイ活動の是非を問う作品である。その活動は第二次大戦中にまでさかのぼる。

 2000年、英国内で一人の老女(おそらく80代)が国家反逆罪で逮捕された。MI5が挙げた容疑は1940年代初めのスパイ行為だった。流出情報は原爆開発に関してだった。数日前に死去した外務事務次官の遺品から、彼と女性がKGBに関係していた証拠が出てきたためだった。

 実話ベースという。そこで当時の英国を取り巻く核情勢をざっと俯瞰する。1939年にドイツのポーランド侵攻で始まった第二次大戦中、英国はプロジェクト「チューブ・アロイズ」を立ち上げ、ドイツと原爆開発を競った。しかし、ドイツの先行を恐れた米国は1942年、マンハッタン計画を立ち上げ連合国側の核開発を一本化した。

 逮捕されたジョーン・スタンリー(ジュディ・デンチ、若いころはソフィー・クックソン)は1938年、ケンブリッジ大で物理学を専攻していた。そのころユダヤ系ロシア人ソニア(テレーザ・スルボーヴァ)と出会い、従兄のレオ・ガーリチ(トム・ヒューズ)を紹介された。

 1941年、英国の核開発機関に勤め始めたジョーンは、ケンブリッジでの成績の優秀さを認められて機密任務につき、米国やカナダへの調査団にも加わる。そうした彼女にレオが近づき、核開発情報を入手しようとする…。

 最終的に彼女は核情報をKGBに流すのだが、それは、核兵器を分散所有することで平和が保たれる、という彼女なりの考えに基づいていた。

 「オフィシャル…」と違ってスパイ行為の是非についての結論は出さず、問題提起だけが投げ出される。その陰で実は、もう一つの問題が提起されている。

 核兵器を分散所有することは平和につながるのか。これは、現在の核保有国と核の傘を支持する国々が主張する核抑止論を前提とした考え方である。一方で、核を全廃するには核保有国を一つでも減らすことが肝要である、とする考え方もある。その点で彼女の行為はどう問われるべきだったのだろう。

 2018年、英国。原題はずばり「Red Joan」。この原題からは、若気の至り、で済みそうな過去がとんでもない結果を引き起こした、というニュアンスが読み取れないでもない。この事件のモデルとされたメリタ・ノーウドッドは2005 年に93歳で死去。映画ほど華々しいキャリアはなく、もっと地味な生活を送っていたらしい。

 


ジョーンの秘密.jpg

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