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閉塞状況から立ち上がる~映画「閉鎖病棟 それぞれの朝」 [映画時評]

閉塞状況から立ち上がる~映画「閉鎖病棟 それぞれの朝」

 

 精神病棟が舞台。これ以上ない閉塞状況に追い込まれた人たちが、それぞれに再生の道を求める。

 秀丸(笑福亭鶴瓶)は妻と父の情交現場に出くわし、逆上して二人を殺してしまう。さらに寝たきりの母を不憫に思い絞殺する。死刑判決を受けたが、刑執行後も死ぬことができず、前例のない事態に慌てた当局によって精神病棟をたらいまわしにされる。

 由紀(小松菜奈)は、義父による性的暴力によって妊娠、自殺を図るが死ねない。チュウさん(綾野剛)は幻聴に苦しみ、妹夫婦からも見捨てられる。

 こうした三人がいる病棟である日、殺人事件が起きた。病棟内で由紀に暴行を加えた男を、秀丸は許せなかったのだ。こうして秀丸は再び被告席に。そこで弁護側の証人に立ったのは由紀だった。世間的には生きる価値のない男と見られていた秀丸のために、自らの傷口を広げる証言を行ったのだ。チュウさんもまた、由紀に暴力を振るった男が許せなかったが、結果として彼も秀さんに救われる。

 二度目の殺人を犯し、生きる意欲を失った秀丸だが、二人の励ましによって再生への努力を始める…。

 原作はもう少し筋立てが複雑なようだが、残念ながら読んでいない。死にきれなかった死刑囚を演じた鶴瓶は熱演だが、死刑囚には見えなかった。しかし、死刑囚には見えなさ加減が、ちょうどいいのかも。あまりにもピタリはまる役者だと救いのない作品になってしまいそうだ。かつて「キューポラのある街」で吉永小百合が定時制高校生には見えなかったその加減が観るものの救いになったように。小松菜奈はなかなかの名演。綾野剛はあちこちの作品で活躍。昨年は菅田将暉の年だったが、今年は綾野剛の年かも。

 2019年、日本。山本周五郎賞の原作は精神科医師でもある帚木蓬生。監督は平山秀幸。

 2016年に神奈川の施設で19人が殺害される事件が起きたが、その時の加害者と対極をなす思想が流れている。

 


閉塞病棟.jpg


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