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現代に通じる「不安と恍惚」~映画「クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代」 [映画時評]

現代に通じる「不安と恍惚」~

映画「クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代」

 

 クリムトとその弟子エゴン・シーレは1918年、ともにスペイン風邪がもとで亡くなった。当時のスペイン風邪は強力で、全世界で少なくとも4000万人が亡くなったといわれる。彼らの死から100年を記念して作られたのがドキュメンタリー「クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代」である。

 スペイン風邪がこれほど猛威を振るったのは、第一次大戦のためともいわれる。大戦が終わった1918年、時代の歯車は大きく回った。神聖ローマ帝国からオーストリア・ハンガリー帝国へと形を変えて続いたハプスブルグ帝国が終焉を迎えた。一方で、第一次大戦という人類初の世界規模の大戦を契機に、戦争の世紀が幕を開けた。

 こうした時代を生きたクリムトとエゴン・シーレは、時代の終わりを生きたのか。時代の始まりを生きたのか。

 二人とも、とても気になる画風の持ち主である。黄金に彩られた女性像は至福とは程遠い不安な表情をたたえる。裸婦像は何かにおびえ、生の歓喜とは対極にいる。それらを評して「エロスとタナトス(死)の芸術」と呼ぶ。こうした絵画群の本質と当時のウィーンの表情を、ユダヤ人としての迫害体験を持つエリック・カンデル(脳神経学者、ノーベル賞受賞者)らの証言で明らかにしていく。フロイトやマーラー、シェーンベルクも語られる中、19世紀末から20世紀初頭の女性像には、近代の女性のアイデンティティーが封じ込められている、というコメントが印象的だ。

 国家総動員体制を競う時代(=戦争の世紀)へと突入した世界は100年を経てグラウンドを一周、20世紀初頭と同じ地点に立っているのではないか。クリムトとエゴン・シーレの作品を見ると、そんな思いが立ち上ってくる。そうだとすれば、二人の天才が表現した「不安と恍惚」はそのまま「今」の時代のそれに通じているように思える。

 2018年、イタリア。

 

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