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現実と非現実の不可解な境目~映画「新聞記者」 [映画時評]

現実と非現実の不可解な境目~映画「新聞記者」

 

 米紙NYタイムズが日本の官房長官会見を取り上げ、「日本政府はときに独裁政権をほうふつとさせる」と批判した。東京新聞の望月望月衣塑子記者への対応ぶりを指している。その望月記者が書いた「新聞記者」を原案として映画が作られた。

 といっても、映画は望月記者を思わせる「東都新聞」女性記者の行動を軸に、前川喜平・元文科事務次官をめぐる「出会い系バー」報道、政権寄りジャーナリストによる「レイプ」事件、加計学園疑惑などをベースにしてフィクションを織り込み、著書はあくまで「原案」のレベルだ。

 東都新聞にある日、医療系大学新設計画に関する資料がファクスで送られてきた。送信先不明のこの文書が何か、社会部の吉岡エリカ(シム・ウンギョン)は取材を指示される。その結果、内閣府のある計画に突き当たった。

 外務省から出向し、内閣情報調査室で仕事をしている杉原拓海(松坂桃李)は日々の仕事に疑問を感じていた。彼のかつての上司・神崎俊尚(高橋和也)が実はこの大学新設計画に関わっており、闇を抱えたまま自殺した。官僚としての良心を捨てきれない杉原と吉岡記者の真相究明が始まる―。

 実際の加計学園疑惑は、首相の「お友達」の経営する大学の学部新設が国家戦略特区の指定を受け、その過程に権力が介在した、との疑惑が生まれたが、映画ではもっと突飛な計画が浮上する。ネタバレを承知でいえば裏の目的は生物化学兵器研究、ということだが、ばれれば国際的に非難され、政権は吹っ飛ぶに決まっているそんな計画を内閣府が進めるだろうか。しかも、それが大学新設計画に明文化されていたなどとは、現実的なストーリーとはとても思えない。

 もう一つ不可解なのは、吉岡記者が見ているテレビ画面に、ある討論会に出ている望月記者が映っていることだ。テレビ画面の向こう側とこちら側に二人の「望月記者」がいる。フィクションと現実の境目を映しているとすれば、興ざめというほかない。

 それは、生物化学兵器研究というありえない筋立てを見せることで作品のフィクション性を際立たせることと、どこかでつながる。つまり、これはフィクションですよとする「言い訳」を前提にしなければ「反権力」をテーマにした展開と筋立てが困難だったという作り手の事情を浮き彫りにしているように思える。

 最近では「記者たち 衝撃と畏怖の真実」や「バイス」「バグダッドスキャンダル」「フロントランナー」(以上、米国)や「1987、ある闘いの真実」「タクシー運転手 約束は海を越えて」(以上、韓国)に比べ遅れをとっていた感のある日本製ポリティカルドラマに久々に出てきた熱い作品(「シンゴジラ」以来だ)だと思うが、いくつかの前掲作品に比べ、ややそのあたりの弱さ(フィクションとノンフィクションの中途半端で不可解な境目)が気になる。2019年、日本。

 


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