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原作に忠実だが、原作とは別物~映画「ナチス第三の男」 [映画時評]

原作に忠実だが、原作とは別物~映画「ナチス第三の男」

 

 世界的なベストセラー「HHhH プラハ、1942年」を映画化した。ローラン・ビネが描き出したナチ高官ラインハルト・ハイドリヒのプラハでの暗殺事件を、ほぼそのまま映像にした。しかし、ビネの原作の価値はストーリーテリングでなく虚実入り混じった複雑な文体にある以上、ビネの原作とセドリック・ヒメネス監督の映像作品は別物と判断したい。

 ハイドリヒ(ジェイソン・クラーク)はユダヤ人「最終計画」の策定者として知られ、ヒムラーの危険な右腕と恐れられた。それゆえに、ベーメン・メーレン保護領(ボヘミア・モラヴィア=現在のチェコ)の副総統に赴任した際には、在英の亡命チェコ政権の標的とされた。しかし、ヒットラーに「鉄の心臓を持つ男」と呼ばれたハイドリヒは、プラハの街をオープンカーのメルセデスで傲然と、時には護衛もなく走った。

 英国からひそかに送り込まれたヤン・クビシュ(ジャック・オコンネル)とヨゼフ・ガブチーク(ジャック・レイナ―)は、東方の三博士と呼ばれたレジスタンスの大物たちと連携、暗殺計画を実行に移す。しかし、スパイ映画やよくある戦争もののようにカッコよくは進まない。メルセデスの前に立ちふさがり、引き金を引いたが機関銃はうんともすんとも言わず、車の後方から投げた爆弾はわずかに標的をそれる。

 それでもハイドリヒは担ぎ込まれた病院で息を引き取る。その後は、ドイツ軍によるあらしのような報復作戦が始まる。この中で、犯人隠匿が疑われたリディツェ村の歴史に残る虐殺事件が起きる…。

 クビシュとガブチークらは教会に立てこもり最後の抵抗をするが、このあたりは、映画的に引き立つよう銃撃シーンが原作より派手目になっている。この点を除けば、ほぼ原作に忠実な作りである。しかし、冒頭に書いたように、ビネの原作がストーリーに頼ったものでない以上、映画と原作は別の地平に立っている、といわざるを得ない。

 また、原作では「わたし」という著者自身が介在するため暗殺される側とする側の視座の転換にそれほど抵抗がないが、「リアル」を追求した映像では、視点の位置の変更(二部構成にはなっているが)が気になってしまう。視座は一貫性を持たせるべきだろう。

 原題は、ヒットラーがハイドリヒに与えた名誉ある? 呼称「The Man with the Iron Heart」。2017年、フランス、イギリス、ベルギー合作。ちなみに、ハイドリヒの死後、ユダヤ人絶滅作戦の暗号名は彼への敬意を込めてラインハルト作戦とされた(「HHhH」379P)。

 

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