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本当はこの後が知りたい~映画「寝ても覚めても」 [映画時評]

本当はこの後が知りたい~映画「寝ても覚めても」

 

 外見上はそっくりな二人の男が現れる。しかし生き方、感性は全く違っていた。二人の間で揺れ動く一人の女性。

 朝子(唐田えりか)は大阪に住んでいたころ、麦(東出昌大)と出会い一瞬にして恋に落ちた。しかし、麦はある日、ふっと姿を消した。2年後、東京の喫茶店でアルバイトをしていた朝子の前に麦と見間違うほどそっくりな亮平(東出昌大)が現れた。二人は互いの友人を交え、平穏な日々を過ごしていた。そんな折り、かつての友人春代(伊藤沙莉)と偶然出会う。春代は、外国を放浪した後モデルとして売り出し中の麦の消息を告げた。

 麦は大阪時代の知人を通じて朝子の居場所を知り、彼女の前に表れる。「必ず帰ってくるから」という約束を守るため、と。一方、大阪へ転勤が決まった亮平は、朝子との結婚を申し入れる。いったんは承諾した朝子だが、麦が再び現れ心が揺れる…。

 ざっとこんな話だが、率直な感想を言えば女は男の何に惚れるのだろうか、という疑問である。麦と亮平は二役だから当然そっくりなのだが、外見がウリ二つならその間で心が揺れる、という心理が分からない。映画でも描かれたように、二人の男は全く別の感性を持ち、思想を持っている(ということになっていた)。当然ながら生き方も人生設計も違っている。亮平はいろいろあるにしてもサラリーマン人生に納得しているし、麦は一発勝負の人生、出たとこ勝負の世界に魅力を感じている。それなら、どちらの人生にわが身を重ねるかは、おのずと結論が出るはずである。

 外見上そっくりな男が現れたら、あなたはどうする?という幾何学的なテーマの立て方は、いささかメルヘン的な志向を感じないでもない。そんなところで人生設計の大事な部分を判断しないでしょ、ということだ。もちろん麦にかけるか亮平にかけるか、人生いろいろあるにしても。

 むしろ興味があるのは、亮平と朝子の今後の人生だ(こう書いてしまうとネタバレになるが)。つまり、この映画で着地点とした位置から物語を始めたほうが文句なくリアリティーのある作品に仕上がるだろう。過去に訳ありの朝子とサラリーマン亮平はとりあえず平穏な暮らしに身を落ち着けたが、表面上はともかく心のわだかまりが消えたわけではなかった。そして10年後…。こんなドラマを見たい気がする。

 ふわっとしているが思いこんだら命がけ、という朝子を演じた唐田えりかは、はまり役だった。監督は気鋭の若手、濱口竜介。2018年、日仏合作。

 


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