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貴乃花は西郷隆盛か~社会時評 [社会時評]

貴乃花は西郷隆盛か~社会時評

 

内部告発の権利さえ無視する相撲協会

A)貴乃花が突然、各界から引退した。なぜこういう事態になったか、例によって貴乃花、相撲協会の主張がまったく違っている。貴乃花は、日馬富士暴行事件での協会の対応をめぐって内閣府に出した告発状が事実無根だったと認めるよう協会から圧力があったと主張、のめないので引退を選んだと。背景には7月の理事会で各部屋は必ず一門に入るよう申し合わせがあり、告発状の否定は一門に入るための交換条件だったとも主張している。

B)相撲協会は貴乃花の主張を全面否定した。告発状を否定するよう圧力もかけていないし、一門に入らない部屋の扱いは今後、理事会で協議する予定だったといっている。

C)一門に入るよう申し合わせた背景は何か。

B)補助金の流れを明確にするためと、ガバナンスを強化するためだったと協会はいっていた。

C)すべての部屋が一門に入れば補助金の流れは透明化できるのか。よく分からない理屈だ。ガバナンス強化のためというのもにわかに理解できない。

A)一門とは、いわば派閥のようなもの。私的集団ができることで、カネの流れや統制が強まるとは思えない。先ごろあった自民党総裁選でも、国会議員は派閥の締め付けによって投票した。その結果、国民の意思とはかけ離れた結果が生じた。派閥の力学とはそんなふうに働く。一門加入の義務付けは、透明化を目指す組織改革とは逆方向を向いている気がする。

B)貴乃花と協会の言い分がかけ離れている以上、真相はにわかに判断しにくい。細かいことはさておき、協会側の発言で思うのは、優勝回数22回という横綱に対して、あまりにも尊厳を重んじる姿勢がないということだ。土俵上の実績に対するリスペクトがなくて、相撲協会の存在理由はどこにあるのだろう。

C)一門加入をきちんと文書化せず口頭での申し合わせにとどめ、しかも貴乃花には(貴乃花の主張通りだとすれば)9月中旬になって伝わったという。そうだとすれば、貴乃花締め出し工作と受け取るのが普通だ。

A)告発状は事実無根だと認めるよう、圧力はあったと思うか。

C)どの段階でかは分からないが、一門に入るためには、告発状はウソでした、といっといたほうがいいよ、ぐらいの話はあっただろう。協会は絶対にそこは認めないだろうけど。

B)内閣府への告発状は、いわば内部告発だった。今の社会では、内部告発者はきちんと公益通報者保護法によって保護される仕組みになっている。貴乃花が告発状を取り下げたのは自分の弟子が暴力事件を起こしたためだが、内部告発者としての人権はきちんと守られるべきだ。

 

尋常ならざる同調圧力の世界

A)全体を俯瞰すると、どうも日本的ないじめの構造に見えて仕方がない。

B)相撲協会の中でどんな議論が行われているのか、まったく聞こえてこない。これは、日馬富士の暴行事件のときもそうだった。協会内の人の顔と言説が見えない。これは異常なことだ。これに対して貴乃花は異分子扱いだ。個別の顔が見えない不気味な集団が異分子を排除する。近代日本で延々と繰り返されてきた構図だ。

C)鴻上尚史氏が「不死身の特攻兵」であぶりだした「尋常ならざる同調圧力」の世界がここにもある、ということだろう。

B)少し視点を変えて言うと、貴乃花は西郷隆盛に似ている。尊王攘夷から尊王開国へと日和見的な修正主義に走った維新政府に対して、西郷は筋を曲げず、負け戦を承知の西南戦争で散った。

A)西郷は征韓論者だったし、吉田松陰もアジア出兵をにらんだ軍国主義を視野に入れていた。明治維新のイデオローグたちは少なからず、こうした側面を持つ。それがのちのち、アジア・太平洋戦争という局面を招いた、ともいえる。

B)話が広がりすぎた。西郷は勝海舟との直談判で江戸城無血開城を成し遂げた。柔軟な戦略家なのか、それとも強硬な原理主義者なのか…。実像が見えないところに、国民的人気の所以があるように思う。貴乃花と似ている。

 

日本全体を覆う不気味な空気

A)貴乃花に対して、組織人としての資質がないとか、大人の対応でないとか、聞くに堪えない批判が相撲協会から出ている。そんなイメージを作りたいのだろうが、逆に、相撲協会の器量のなさにつながっているように思う。

B)たしかに。貴乃花のような人間がいてもいいじゃないか、とどうして言えないのだろう。それも、一人として。その辺は組織として不気味だ。

C)しかし、これは相撲協会だけのことではない。先日の自民党総裁選だって、石破茂・元幹事長に対する「排除の論理」が随分働いた。選挙に立つだけで、異常なことだった。前回総選挙の秋葉原演説では「安倍やめろ」コールに対して「こんな人たちに負けるわけにいかないんです」と応じた安倍晋三首相の人間的な狭量さが目立った。今回は、公道であるにもかかわらず選挙カーの周囲を支持者で固めたらしいが。

A)現政権になって、メディアに対する露骨な介入も目立つ。これも、批判は許さない、という了見の狭さがなせる業だ。

B)石破さんが一級の政治家とは思わないが、テレビでの一連の討論を見ていると、石破さんがとても優れた政治家に見えた。それだけ安倍という政治家の品性がないということだろう。

B)国籍の違う人たちや沖縄の人たちに対する根拠のないヘイトスピーチといい、杉田水脈衆院議員のLGBT差別論文を掲載、擁護した「新潮45」といい、異分子排除の動きが果てしなく続く。政権、自民党や相撲協会の動きはこれらとも同質の根を持っている。日本全体が不気味化している。

C)鴻上さんが描いた時代のようにならなければいいが。

 


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