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魂を揺さぶる歌声~映画「BUENA VISTA SOICIAL CLUB adios」 [映画時評]

魂を揺さぶる歌声

~映画「BUENA VISTA SOICIAL CLUB adios

 

 スペインの片田舎で見たフラメンコ。寒風すさぶ陸奥(みちのく)で聞いた津軽のじょんから。泥のついた大根のようでいて、しかし高い音楽性が魂を揺さぶる。キューバの「ソン」もそんな音楽だ。だが、ここにあるのはそれだけではない。キューバが歩んだ歴史の重みと哀しみが、込められている。その複雑な歴史は土着の民だけでなくアフリカ系、ヨーロッパ(スペイン)系、そして米国系の民によって紡がれた。立ち上る音と歌声は貧困と抑圧を内に秘めてカリブの陽気なリズムと旋律に彩られる。ステージで歌い、演奏するのは80代、90代である。「奇跡」というしかない。

 さまざまな文化の融合の末にキューバで生まれた音楽「ソン」を追ったドキュメンタリー映画「BUENA VISTA SOICIAL CLUB」(2000年に日本公開)の続編ともいうべき映画が、この「BUENA VISTA SOICIAL CLUB adios」である。前作の監督ヴィム・ヴェンダースは総指揮に回った。

 いささか芸のない言い方だが、観ての(聞いての)感想は「とにかくすごい」の一言。80代、90代の老境がカリブの煽情的なリズムに乗って、貧困や差別、抑圧の果ての哀しみをナイーブに、そして情熱的に歌い上げる。圧巻は、裕福な白人の母と貧しい黒人の父の間に生まれたオマーラ・ボルティオンド(写真左)の「二本のクチナシの花」。クチナシといえばビリー・ホリデーだが、まさしく大輪の花二つの観がある(オマーラはキューバのサラ・ヴォーンと呼ばれている)。

 「BUENA VISTA SOICIAL CLUB」は、キューバで埋もれかかったソンの名手たちを掘り起こして世界に衝撃を与えたが、続編ともいえる「BUENA VISTA SOICIAL CLUB adios」は、その名手たちが世界にはばたく様子が描かれている。1998年のアムステルダム初公演、その2カ月後のカーネギーのステージ…。しかし、一方ではグラミー賞授賞式に出席するためのメンバーのビザが下りなかったことなど、政治による不条理のシーンも挟まれている。

 タイトルに「adios」とついているが、どうかこれで終わりにしないでくれ、といいたい。2017年、英国。


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